今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

明治維新の敗者たち 小栗上野介をめぐる記憶と歴史


新聞の書評欄で見かけて早速図書館で予約。江戸幕末、不遇の死を遂げた小栗上野介の実態を知りたくて…


明治維新の敗者たち 小栗上野介をめぐる記憶と歴史」マイケル・ワート 著/野口良平 訳(みすず書房)


以下、感想。。。


















著者は外国人。幕末の混乱の時代を外国人の目はどう見るのか、気になるところ。


著者のワート氏は群馬で英語教育に携わっていたらしい。そこで、地域の歴史を語る上で忘れてはならない人物を知った。様々な人々が語る小栗上野介はその人それぞれの小栗上野介であり、彼は異国人の目線でそれらを冷静に整理し、小栗の実像を捉えようとしたようだ。


新選組に出会うまで(笑)、日本史には全く興味がなく、蘇我入鹿の時代辺りで時代が止まっていた私。そんな私に幕末の人で1番記憶に残る人と言えば、皮肉にも小栗上野介忠順…


西郷隆盛でも高杉晋作でもなくて、小栗上野介忠順。多分、私のような人は多いと思うのだ。それは、あの「徳川埋蔵金伝説」のおかげで(笑)。


テレビ放送があると食い入るように見つめてきた私。録画放送なんだから、何かしらの発見があれば、放送前にテレビや新聞で騒がれてるはず。世間の動きが何も無いということは今回も埋蔵金は見つからないのだと分かってはいても見てしまう。私にとっては矢追純一さんのUFO特番と同じくらい心を掴まれた…


実際にどれほどの事をしたのかなど一切知らずに、徳川の危機に際して、その再興を期して軍資金を山に埋めた…その小栗上野介忠順の行動に惹かれ、ついつい…


石田三成埋蔵金も気になるところだが、圧倒的な勝者に対して、負けるべくして負けた敗者の中にも最後まで自分の頭領のために命をかけて行動した人に人間は弱いのだ。石田三成小栗上野介忠順も立場は似ている。


小栗上野介忠順に関する捉え方は、明治初期と今ではかなり、いや全く違うのではないか…明治初期は勝者の理論で全てが語られ、小栗に関しては最後まで新政府に抗した人物として悪評しかなかったろう。


時代を掌中にした新政府に対して、江戸城無血開城駿府への徳川家移封などある意味その意向に沿って行動した勝海舟とは全く対照的だ。


私が子供の頃は、勝海舟こそ江戸を救った人物のように「偉人」として教えられた。そこに小栗の「お」の字も出てこなかった。


ところが、今知れば、勝海舟は明治政府の意向に従ったから偉人なのであって、小栗は最後まで日本という国を再興させるために生きたから朝敵だと罵られた。


幕府側の人間として薩長軍と戦いながらも維新後は明治政府に出仕した人間が少なからずいる。彼らはどんな心持ちだったのだろう。


函館政府の中でも、新政府軍に対して好戦的だった土方歳三は最終的に政権幹部のたった1人の戦死者となった。戦う覚悟の無い幹部たちが降伏へと進もうとした時、その存在が邪魔になり、函館政府が彼を殺したのだという話すら残っている。


たとえその時理解は得られなくても、理不尽な取り扱いをされようとも最後まで意思を貫いた人々は、いずれその正義を証明する人々が現れる。小栗も土方歳三もまさにそんな感じだ。


小栗の復権のために尽くされた努力を語ることが本書の主題のようだ。


戊辰の役が終結し、幕府側に身を投じた人々がそれぞれ投獄されたり、謹慎したりの一時期を過ごした後、赦され、それぞれの道を行った。明治政府に出仕した幕府側の幹部たちは一般の武士たちよりずっと高位の要職を得て、「のうのう」と生きた。それも本書で語ってるから面白い。榎本武揚など一刀両断だ。


権田村の小栗復権への強い思いが語られる本書。これと同じように西郷隆盛を語る人々もいるのだろうが、そちらには共感しない。なにしろ直接の手は下さずとも小栗上野介忠順や近藤勇に対する怨恨による処断を許した薩長軍の頭領だから。


幕府という「敵」があるうちは纏まっていた薩長軍も目の前の敵がいなくなるとにわかに内部にすきま風が吹くようになる。どこの組織にもあることとは言え、舵取り役の西郷など主だった人々が先を見る目が無いのだから、仕方ない…


埋蔵金伝説のおかけで小栗上野介忠順の「仕事」への評価はどこか方向が違ってしまったようだけど、既に無いものと思われる埋蔵金の呪縛を解かれ、これからが真の評価を得る時代なのかもしれない。


ずいぶんと長く薩長という勝者の歴史に翻弄されたものだ。