先日観た「ルート・アイリッシュ」のケン・ローチ監督のご子息、ジム・ローチ監督の作品…
社会派監督の元で育った息子はやはり磨かれている…
そんな印象を強烈に残す。
かつて、イギリスとその植民地であったオーストラリアとの間で、国の政策として行われていた違法な「児童移民」
違法な手段を講じて行っていた「移民」に手を染めた国や関係した教会や慈善団体は、硬く口を閉ざし、公式の記録は一切残していない。
実際に移民として、オーストラリアに送り込まれた少年少女達しか「真実」を知らない現状…
幼い頃に家庭の事情で養子に出された人達の心のケアを担当する福祉士の主人公の元に、ある日オーストラリアに「養子」に出された女性が訪ねてくる。
女性の境遇は「養子」とは程遠いもので、彼女自身が自分のルーツを辿ることさえ出来ない現実を知った主人公…
帰国した女性の訴えがいつまでも心に残り、養子のケアをしている現場で似たような事例を耳にした彼女は、夫の協力を得て、調査に乗り出す。
たった1人の女性が立ち上がったことで、様々な人達に葛藤が起こる。
過去の違法行為を認めようとしない国、暴力による脅しで彼女を恐怖に陥れる教会…
彼女が闘いを挑んだ相手はとてつもなく、大きな壁だった。
イギリスとオーストラリアを行き来する生活の中で、自分の子供達に寂しい思いを強いていく…
精神的にも肉体的にも追い詰められていく彼女だが、結局は「自分がやらなかったら、誰が…」という強烈な決意の元、再び夫と共に立ち上がっていく…
クリスマスの日…
母のオーストラリアでの拠点を訪ねる子供達…
「児童移民」の犠牲となったある女性からクリスマスプレゼントを貰った息子。
「私達にプレゼントはないの?」と無邪気に問いかける女性に対して…
「ママをあげたでしょ…」と答える。
クリスマスパーティーの賑やかだったテーブルは一瞬にして静まり返る。
子供達の「決意」が涙を誘う…
静かに、しかし、強く深く心を叩くこの映画の登場人物達…
1人の女性の決意が、多くの人々の心を結びつけていく過程を丹念に描き出していて、事実の持つ「重み」がズシリと響く。
変に脚色した感動ではなく、本当に日常の中での彼女の闘いに焦点を当てていて、同じ1人の人間として、彼女の苦労、挫折、焦り、恐怖が自分の立場でも感じ取れる。
久しぶりにヘビーだけれど、高揚感をもって、観終わった作品だった。
岩波ホールでしか上映していないという難点はあるけど、機会があったら、多くの人に観てほしいと思う作品だ。