今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

サウルの息子


ゴールデン・グローブ賞 外国語映画書受賞作品。もちろん、アカデミー賞でもノミネートされてるんだろけど。そこまで、チェックしてません(•́ε•̀;ก)💦


最近の映画はスクリーン全体を使うようになってるのか、予告編が終わるとスクリーン両サイドの暗幕が開いていくのが普通だが、この映画暗幕が閉じていった。えっΣ(゚д゚lll)?


縦横の比率1:1の「Mammy」を思い出した。まぁ、そこまでスクリーンが狭まることはなく、昔のテレビサイズかなぁってくらい。


そして、いきなりピンボケの画面‼この映画、終始全体像を映さない。主人公サウルの視点に沿う形で、彼の目に映らないものはスクリーンに登場しない。


彼の背景にあるものすらぼんやりと彼の後ろに映り込むだけだ。


これは彼の今いる現状を表しているのだと気づくのにかなりの時間がかかった。


彼のいる場所が全ての理由。彼は、ゾンダー・コマンドという名称で呼ばれる班に属するユダヤ人。多くのユダヤ人が連れてこられる収容所。そこは彼らをシャワーと称して裸にし、部屋に閉じ込め、毒ガスのシャワーを浴びせる場所。


ホロコースト」の現実を映し出している。


サウルは死への一時の猶予の替りに、ガス室送りになったユダヤ人たちの最期を「処理」する。


あくまでも、一時の猶予だから、いつしか彼らも先に逝った人たちと同じ道を辿る。それは、何も知らずにガス室に送られる人たち以上の恐怖があるのではないか。


サウルの班では、なんとしても生き延びようと不穏な計画を進めつつあった。彼は機械がいじれる時計技師として、反乱を起こそうとするユダヤ人たちには大事な存在なのだ。


しかし、彼はもう既に心ここにあらずで、班の仲間たちにただ付き従って、薄ぼんやりとした視線を送っている。その眼に映る物事がスクリーンに映し出されているぼやけた映像なんだな。


その先に1人の少年が現れた。彼はガス室の中で奇跡的に生き延びたのだ。しかし、どんな奇跡が起きようと少年の明日は決まっている。医師が少年の息を止める。


死んだ少年はサウルに生きる希望を与える。彼らの信仰に則って、少年の遺体を埋葬しようと決意する。少年は彼の息子なのだと。だから、彼を埋葬するためにラビを探すのだと。


毎日、列車で到着する多くのユダヤ人をガス室に送り、その遺体を焼却する。過酷なサウルの日常に変化が訪れる。


少年を埋葬するために、彼は賄賂を使い、他の班に忍び込んでラビを探し続ける。その常軌を逸した行動で、多くの仲間が危機を迎え、死んだ者さえ出てしまう。


それでも、サウルはやめない。ただ、「息子」を埋葬するために仲間が起こした反乱さえも利用する。既に彼の正気は失せているのだ。


ぼんやりとスクリーンに映し出された様々な物、人。それはサウルには見えない物。彼に唯一見える物、それは息子の遺体と埋葬に関わる物だけ。


人間を人間として扱わず、物として処理するホロコーストの現実に既に彼の心は死んでいる。


仲間は反乱を起こし、逃げ出すことを心の支えになんとか生きていたけれど、サウルは彼らほど強くなかったのだ。正気を逸したサウルの姿が全てを語ってる。


人を人たらしめるものは、何なのか。


とても、恐ろしい。


大戦下でのナチス・ドイツの悪行愚行については、数々の映画が作られ、目にする機会もあったが、今回の「ゾンダー・コマンド」という言葉は初めて知った。ハンガリーにいたユダヤ人のことも。