私のベストと思う小説「永遠の0-ゼロ-」の作者、百田尚樹さんの新作をやっと…
今回も私の知らないびっくりな「世界」のお話。
以下、感想…
主人公は、編集者を夫に持ち、経済的にも不自由のない専業主婦、聡子…
結婚後、不妊の原因が自分にあることがわかり、夫にある意味屈辱的な協力を強いる形で、不妊治療にあたっていた。
高額な治療費と精神的苦痛は聡子を追いつめる。一方、夫は、聡子との家庭を壊すつもりはないらしいが、明らかに「女」の存在を感じとれるほどの状態だ。
不倫を責めるつもりもない聡子…それは、夫を愛していない証拠のような気もするが、聡子は敢えてそうは考えない。家庭に持ち込まないならと傍観している。
きっと、彼女の心のどこかに不妊の原因が自分にあることを後ろめたく思うところがあるのではないかな…
そして、彼女は「一歩」を踏み出す。
その「一歩」は彼女の後の人生を大きく変えることになる最初の一歩。
日々追いつめられていく自分の心を解放するために選んだ仕事は家庭教師。
派遣先の家庭で出会った男は、当主の異母弟。
会う度に様子の違うその男は、岩本広志といった…
しかし、彼の様子の違いは聡子には理解できないほど振り幅が大きい。
聡子は、ちょっとした好奇心から、広志の生い立ちを知り、広志の哀しい病を知る。
さらには、広志の持つ「解離性同一性障害」という病の中で、人格形成された村田卓也と運命的な出会いを果たす。
卓也との出会いは、聡子に様々な「真実」をもたらす。
ラストは「真実」の上に立って歩き出した聡子と広志の再会で幕を閉じる。
新しい2人の未来が見えるように感じる場面。
なかなか一般には理解できない「多重人格」の現状を聡子を通して、1つ1つ知っていく読者…
広志によって、人格形成された数々の人物の姿を通して、この病気の難しさを知っていく読者。
けれど、この病気自体もこの物語の上では、場面設定、人物背景の1つのようだ。
これは、「大」が付くほどの「恋愛小説」…いや、「純愛物語」!!
卓也の思いを不器用ながらも、自分の言葉にして引き継いでいく広志…
卓也だけじゃなく、最後まで人格統合に抵抗した純也も聡子を好きだったのは、ある意味、当然だったんじゃないのかな…
彼らは「多重人格」として、それぞれが全然違う容姿風体で、違う嗜好を持つように言われている。
けれど、主たる人格に統合されていく上で、最後まで残る人格を統合するには、彼らが全てを託しても守りたい物が「統合(共通化)」されていないと無理なんじゃないのかな。
そう考えれば、彼らがみな聡子を好きだったのは、統合への大きな弾みになった筈だ。
というより、統合される彼らが同じ人を好きになるのは当たり前…と。どうだろうか。
「愛」の力は、この上なく大きいのだと…
なんだか、くすぐったくなるような…
不思議な思いで、本を閉じた。