今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

許されざる者(李相日版)


初めて劇場で特報を観たのはいつだろう…


9月の映画をもう宣伝するのかと驚いた記憶がある。


そして、宣伝するにはワケがあるのねと観て思った。


この映画、絶対観た方が良い!!


本家の「許されざる者」は1993年製作、クリント・イーストウッド主演の西部劇…


初めて見た時…


泣く子も黙る有名な賞金稼ぎだった男が、1人の女に出会い、酒も止め、人殺しも止めて、荒野の真ん中で家畜を糧に生活している。


その姿が理解できなかった。奥さんが登場すれば、まだその姿を見て、納得できる部分はあったのだろうけど…


家畜の豚が病気にた罹り、次々死んでいく段になって、男は貧しい生活に目を向けるようになり、子供の将来のために「金」を必要とするようになる。


娼婦を襲った賞金首を昔の仲間と話を持ち込んだ若造と3人で狙うのだが、それを阻止すべく立ちふさがる保安官との死闘。


クリント・イーストウッド版は、ここまでの流れが、どれもこれも全て乾いた印象で綴られる…


オリジナルも十分に重いテーマではあったけれど、西部劇の舞台となる街の乾いた感覚が最後まで残る。


実は、この印象はずっと消えなかったので、今回「李相日版」鑑賞後に、イーストウッド版をもう1度おさらいしたんだ。


やっぱり、同じ印象が強く残ったのだ。


今回の日本版は、舞台が雪に覆われた北海道…この段階で既に湿り気がある。


主人公の妻は、既に亡くなっているのは同じだが、その出自はアイヌだ。


共に賞金首を追う若造は、和人とアイヌの混血…主人公の子供たちもそうだ。


彼らはただ辺境の地にあって貧しさに苦しむだけではなく、近い将来彼らの出自で悩むことになるのだ。それは、その後の日本の歴史を知る私たちには十分感じとれる。


オリジナルには無い「湿り気」が全編にわたっている。


セリフや設定など、全く同じだったりする今回のリメイクだが、実は似て非なる物という印象が強い。


あちこちの映画評で評価が二分されているのを見て、不思議だった。


多分、「リメイク」だというからには、オリジナルと同じ感触の映画を期待した人が多かったのだろうなぁ…


別に民族云々するつもりは無いけれど、在日コリアンの李相日監督だからこその「湿り気」なんだと思う。


李監督と同世代の日本人の若者には、こんな映画撮れないんじゃないかと思う。


後は好みの問題で、私は「湿り気」を選ぶ。


もちろん、乾いてる方も重厚な作品であるとは思うけど…


一緒に観てた相方が、「十三人の刺客」みたいに「斬って、斬って、斬りまくれ〜」的な渡辺謙を期待してたらしく、そういう人にはちょっと物足りないかもねぇ…


そういうお話じゃないから…


ラストシーンは、最後まで「湿り気」を持たせるには、あれがベストじゃないかと…