GWの1日、いろいろと評判になってる「ワレサ」を観に岩波ホールへ…
私たちにとって、ワレサ氏と言えば、東欧の社会主義国家にあって、民主化の旗印みたいな…
そして、そのワレサ氏が毎日のようにニュースに登場した頃を当時すぐそばで共に闘ったアンジェイ・ワイダ監督が映画化。
政治的に考えを異にする人たちもまだ多いだろうし、すでに労働組合の委員長ではなく、その先の政治家として職に就いていた彼も今はもう過去のことだ。
そして、なにより映画化した監督とは袂を分かつ結果となり、今では政治的見解を異にしている。
そんな状況下でも、かつての盟友の真実の姿を伝えようとするアンジェイ・ワイダ監督の意思をどうとらえたら良いのだろう。
あの頃は良かった…とか?
映画に登場するワレサ氏はふつうの人だ。
妻を愛し、子供を愛し、家族のために一生懸命働くどこにでもいる普通の父親であり、夫だ。
その彼が労働組合のデモに遅れてしまう。彼が到着した時には、既に警官隊とデモ隊とが衝突し、多数の逮捕者が出ていた。
彼はムダな争いは避けるべきだと仲間たちを必死に説得し、踏みとどまるように訴える。
しかし、一種の興奮状態に陥っている群衆はワレサ氏1人の説得になど耳を貸さない。
多くの逮捕者に混じって、警察に連行されたワレサ氏だが、必死に仲間を止める姿が目撃されていて、すぐに釈放となる。
しかし、これがワレサ氏と警察との攻防の始まりだったのだ。
その後、自分の考えを明確に言葉にする彼は、多くの組合員の中で、メキメキと頭角を現し、気がつけば、労働組合の顔となり、何度となく警察に逮捕されるほどの戦士になっていく。
彼がスゴいのはよ〜く分かる。でも、もっとスゴいのは彼の奥様だ。
彼が労働者たちの先頭に立つことを積極的に応援していたわけじゃない…そんなの、当たり前だ。貧乏人の子沢山で、けして裕福に暮らしているわけでなし、さらに夫は自分たちの地位向上のために体を張って闘ってる…
こんな夫を支えながら、彼女は立派に子供を育て、彼が留守することの多い家を全力で守っている。
ワレサの歴史は、彼を支えた奥様の歴史でもある。
東欧の民主化が進む中にあって、ワレサは驚きの表彰を受ける。ノーベル平和賞だ。
まだまだ自由に出国できない夫に代わり、彼女が授賞式に参加し、帰国時には当局の嫌がらせとも言うべき、屈辱的な入国審査を受ける。
こうした中でも、彼女は堂々と胸を張って歩く。
ここまで、夫を信じ、愛すること…今の時代にはなかなか出来ない。
映画は、ワレサが国連に出向いてスピーチをするところまでで終わる。それから、現在までは敢えて描いていない。
ワレサを巡る連帯の活動もある一定の目的を達したことで、それぞれ違う方向を見出していく者たちが…
実際、本作を監督したアンジェイ・ワイダは今や彼と袂を分かち、いやむしろ、彼を批判する立場に身を置いている。
だからこそ、ワイダ自身が賛同し、同じ方向を見つめていた頃までのワレサだけを描いたのだろう。
たとえ、目的をある程度達成した後に以前ほどの勢いを無くしたにしても、それでも、彼が成し得た結果は評価して余りある。
その辺りを冷静に描いているところが、ワイダ監督の素晴らしさ、公平さだと痛感した。
時代の空気がピリピリと「生きている」感触を生む…そんな時代を駆け抜けた1組の夫婦の物語を読んで見て〜