今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

パプーシャの黒い瞳


全編モノクロームの映像。主人公はポーランドのジプシーの女性。彼女は詩を詠み、ジプシー初の女性詩人となる。


先の大戦の前後を生き抜いた主人公。


音楽とダンスをしながら、旅を重ねるジプシー。荷馬車に楽器や生活道具を積み込んで、村から村へ。


私はジプシーの定義というか歴史を全く知らなかったので、映画の中で、ジプシーの男たちが自慢げに語る「なぜ我々がナチスから逃げられたか」も意味が分からなかった。


ただ、セリフから読み取れるのは、彼らが「ジプシー」であるということで、あきらかに他者と区別され、さらには差別を受けているということ。


弱い立場にある彼らは互いに寄り添い、密接なコミュニティを形成することでその厳しい社会を生き抜いているということ。


長老を頂点とする小さくて濃いコミュニティの中では、少しでも目立った行動があると咎め立てられる。


ジプシーの女性が無駄に知恵をつけなくて良いとする古くからの考えに沿って、彼女たちは文字を学ぶことはない。


しかし、主人公パプーシャは、その文字に興味を持ち、読み書きを学んでいく。そして、旅の途中の出来事や心の動きを言葉にし、書き留める。


当時、パプーシャのいるコミュニティに、外部の男性が1人付き随っていた。ジプシーではない彼が受け入れられたのは何故なのか。また、彼はどんな意図で2年もの間共に旅をしたのか。


パプーシャは年頃になると、父親が僅かな金品と引き換えに彼の兄弟に嫁として引き渡される。父親ほどの好きでもない男に横恋慕されて…でも、小さなコミュニティの中で、彼女の気持ちなど斟酌されない。


女たちにベールをつけられ、花嫁衣装を着せられている時の涙を流すパプーシャがとても美しい。モノクロームの作り出す陰影が彼女の美しさをより引き立てる。


こうして、自分の意に反した人生を選ぶことを余儀なくされた彼女は、詩を詠むことで自分の思いを晴らしていく。


その純粋な詩が映画でも紹介される。


パプーシャにとって、ジプシーのコミュニティを離れた男だけが外部に通じるパイプだ。辛く、自分の思いが押しつぶされそうになる度に彼女は詩を詠み、男に送る。


男はその詩の素晴らしさに感動し、世に出そうと試みるが、どこの出版社にも断られてしまう。この辺りにもジプシーの置かれた厳しい状況が読み取れる。


男は最後の手段として、詩人の大御所にアドバイスされ、ジプシーについての研究書を出版することにし、その中でパプーシャの詩を紹介することに。


これが、後々パプーシャを追い詰めることになる。


ジプシーの暮らしについて書かれた本が世に出ることで、彼らは長老の家に集まって、その判断を仰ぐ。


古くからの慣わしに縛られた濃密な社会で、彼らの「掟」や「秘密」が世間に広まったのは、パプーシャが作家の男に話したからだと断罪され、彼女はその小さな社会から村八分の状態になる。


瑞々しい感性で素直な心の動きを詩に託したパプーシャは、自分の行動が人々の怒りを買ったことに恐れおののき、それまで書きためたものを燃やしてしまう。


芸術を活かすも殺すも、それを取り巻く環境なんだと強く感じた。文字を持たないジプシーだからこそ、素直な心の動きに敏感だったのかもしれない。だからこそ、言葉の持つ素晴らしさに気づいたのかもしれない。


彼女は、その後も世の動きに翻弄され、とても幸せな人生だったとは言えない。


戦場に取り残されていた赤ん坊を自分の子として育てたが、その息子は事実を知ってパプーシャを罵倒する。ジプシーに拾われたために苦労したとでも言いたいのか…


辛い状況の続く彼女を生かしたものは「詩」だったのか…


モノクロームの美しい映像が彼女の辛さを際立たせるというか…


モノクロだったために時代を行きつもどりつして構成された映像の切り替えが、今一つ分かりにくい。一応、切り替えた時に年号が入ってはいたんだけどね。


ジプシー女性の一代記ってことで観れば、ストーリー的には普通なのかも(汗)波瀾万丈ではあるけれど…でも、あの美しい映像が、素晴らしい。幌馬車に続いて進むジプシーたちの姿や森で歌い踊る姿、どれもこれも美しかった。


それだけで、十分満足できる。


パプーシャの詩の一節が映画でも紹介されるが、素敵な詩だった。出来れば、もっとたくさん紹介してほしかった。


ちょうど公開と合わせて、映画にも登場するパプーシャの詩を紹介したジプシーの本が初邦訳され、出版されたようなので、読んでみたいなぁ〜♪


さすがにまだ図書館には無いんだけどね(汗)


最後に、パプーシャがジプシー達に断罪された時、みなが口々に言ってた「ジプシーの秘密」とか「ジプシーの掟」って何なんだろ〜(゚ペ)?


それが気になって仕方なかったわ(汗)