ミステリー小説として人気の高いトム・ロブ・スミスによる「チャイルド44」を映画化。
舞台はスターリン政権下のソ連。疑いを持たれること、それはすなわち死を意味する時代。
KGBの前身MGBの優秀な捜査官が主人公。美しい妻と権威ある職に就く彼が抱いた小さな善意が、彼を妬む部下の狡猾な策略に利用されてしまう。
彼は命こそ奪われずに済むが、それまでの恵まれた環境ではけして表に出ることの無かった感情が剥き出しになり、互いに深く結びついていると思っていた妻とは、彼の与える「恐怖」で繋がっていたことを知る。
身分証も持たず、何の保証もないまま彼の元を去ろうとする妻。それは即「死」を意味するのに。
互いに真実を吐露し、彼は妻を引き止め、彼がモスクワでやり残した事件の捜査を開始する。
自由の利かない時代。人の目に付くことが即逮捕に繋がる時代。容疑などはいくらでも後付けできる恐怖政治の中にあって、彼の始めた捜査が何を意味するのか…
命のギリギリのところを主人公と妻は互いを見つめながら進んでいく。
原作は途中まで読んだところで、映画を観た。
それで良かったと思った。少しずつ、映画として成り立たせるために原作とは違う話の運びをしていた。それでも、映画は映画として楽しめた。
タイトルにある44人の子供の失踪殺人事件を追跡する話ではあるが、むしろ、それはとっかかりで、主人公と妻との家族としての「再生」の物語に仕上がっている。
孤児院を脱走してきた主人公。夫以外に頼る家族のいない妻。それぞれが1人きりの孤独な過去。
戦歴をもって出世して行った主人公に見初められた妻にはそれを拒否する権限も勇気も無かったのだ。拒否することは彼女の命の終わりを意味していた。
そうして、生きてきた2人に真実を見つめるきっかけとなった事件だった。
妻と再生の道を歩くために、主人公は仕事の上でのこととは言え、自分と同じ立場に追いやってしまった少女を探し出し、共に生きていこうとする。
妻もその主人公の心に寄り添うことを決める。
全編を通して、当時の世相を反映するためか暗い映像で通している。おまけに話も重い。
最後に明るくなった映像と共に少しずつ陽が差し始めた主人公と妻の関係が見えたところでラスト。
ズシリと来る。原作がどうかは分からないが、これはこれで私は十分満足だ。
大好きなトム・ハーディのただカッコいいだけではないその姿が良かった。妻のノーミ・ラパスも強い眼差しが良かった。
時代が時代だけに次はどうなるのかとハラハラしながら、それと平行して夫婦の新しい絆を紡いでいく物語として、十分楽しめた。
これは、お勧め‼