今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ブリッジ・オブ・スパイ


アメリカとソ連、西側と東側とが一発触発の冷たい関係にあった時代。それぞれがスパイを送り込み、自国の優位を保とうとした時代。


そんな冷戦下にあって、アメリカとソ連にそれぞれ捕らえられたスパイを巡る攻防を実話ベースで映画化。


監督はスピルバーグ、主人公であり、スパイ交換の交渉を果たした弁護士をトム・ハンクスが演じる。


交通事故などの保険請求について、依頼人の代理で交渉を行う仕事が多かった主人公。


弁護士協会の推薦を受け、アメリカに逮捕されたソ連のスパイの弁護を担当する。


国中に恨みを買うソ連のスパイ。彼が電気イス送りになることを皆が望んでいる。そんな中で、主人公はたとえスパイだろうと彼の人権を無視した裁判や評決は許されないと訴える。


家族の命が危険に脅かされても、彼の姿勢は変わらない。そして、スパイであろうと公平な裁判の元、罪状に見合った評決を下すことで、アメリカという国の素晴らしさを知らしめる結果になると判事に訴える。


こうした主人公の努力で、ソ連のスパイは刑務所で刑に服することになる。


同時期にソ連に捕らえられたアメリカ軍のパイロットは、ソ連上空から偵察する任務を帯びていた。


運悪く、ベルリンでは東西を分断する壁の建設が進んでいる時期で、そちらでもアメリカ人の学生が東ベルリン当局に拘束される。


一連の裁判の結果、ソ連に捕らえられた国の密命を帯びたパイロットの解放を目的とする交渉も主人公に委ねられる。


アメリカが国として交渉に当たるのを避けたため、民間人の一弁護士にその役が回ってきたのだ。主人公は、二つ返事でその仕事を引き受け、遠く東ベルリンの地にたどり着く。


なんという使命感だろう。彼は弁護が仕事で、交渉人ではないのだ。それでも、裁判を通じてコミニケーションを重ねたソ連のスパイを解放するために奔走する。


ソ連のスパイだけではない。彼をソ連に引き渡すことで、アメリカも2人の青年の引渡しを要求する。


それぞれ独立して交渉に当たり、自国がイニシアチブを取るように働きかけてくるソ連と東ベルリン。


あくまでも自国とアメリカ、「1対1」の交換交渉を進める両国。しかし、主人公は、アメリカ側の2人は別々ではなく、1つなのだと強硬に主張する。


映画冒頭で主人公の保険交渉のやり取りが描かれる。そこで彼はあくまでも事故は1つとして扱うという態度を鮮明にする。たとえ被害者が5人いようとも5人で1つと判断する。


この彼の捉え方は息詰まるような緊張の中で行われる東ベルリンでの交渉でも変わらない。彼の交渉事における姿勢はどんなに厳しい状況下であってもブレることが無い。


この辺りの意思の強さと粘り強さには敬服する。これが実話ベースなのだから、恐れ入る。


交渉は、それぞれの国のプライドや様々な事情が絡み合い、最後の最後まで先の見えない状況で進んでいく。サスペンスでなくても、アクションでなくても、ハラハラドキドキさせることは可能なのだ。


脚本の妙と監督の手腕。そして、それらを形にしてみせる俳優。


2時間20分以上の長尺が全く気にならない。


東西冷戦下でのスパイ交換交渉を題材とする映画であるから、重苦しい時間の連続かと思っていたが、時折、笑えるシーンを挟み、観る側の緊張をほぐしてくれた。これも、長尺が気にならなかった1つのポイントだと思う。


歴史の一端を垣間見る。重厚感に溢れているのに、十分に楽しめる。満足度の高い映画だった。