今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

リリーのすべて


日記の更新は久しぶりだ。劇場に行くチャンスが無くて、しかも本を手に取る気持ちにもなれず、ぼんやり…久しぶりの外出で劇場にも立ち寄る時間がとれた。たまたまちょうど良い時間の作品があった。「リリーのすべて


何のサービスデーでもない平日の午後、映画の街とは言い難い地元の劇場で、半分以上席が埋まる映画はそうそう無い。


この映画はそんなそうそう無い映画の1つのようだ。


昨年、ホーキング博士を演じてアカデミー賞主演男優賞に輝いたエディ・レッドメインの新作。今年のアカデミー賞でも受賞は逃したが、彼はノミネートされ、相手役の女優さんが助演女優賞初ノミネートで初受賞という話題の作品。


古きヨーロッパの街並み。そこに行き交う人々の服装。とても、美しい。


そうした主人公たちの生きる世界の背景の美しさは、彼らの選んだ厳しい道を映し出すスクリーンでとても輝いていた。


世界初の性転換手術を受けたリリーの日記を元にした実話。


デンマークで生まれ育った街の風景画で評価を得た若い男性画家。妻も画家だが、彼女は肖像画しか描かず、評価も今一つだった。


それでも、2人は幸せだった。明るく、伸びやかで、はつらつとした奔放な妻に静かな優しい笑顔で寄り添う夫。


2人の関係性は最初から我々が持つ夫婦のイメージとは逆のようだ。


そんな時、遅刻した妻の肖像画のモデルに代わり、ストッキングを履き、ドレスを当てて、妻の前に座った夫。


その美しさに息を呑む妻。胸に当てたドレスやストッキングに包まれた自分の足を見つめ自分の心に喜びが溢れるのに気づく夫。


画家として作品を売るための付き合いとしてのパーティに出席することになった2人。ほんのいたずら心で女装した夫を夫の従姉妹リリーとして連れ出す妻。


ところが、ここでリリーとしての自分に酔いしれてしまう夫。自分の本当の心に気づき、それを認めようとする夫。


妻はそんな夫の変化を受け入れることが出来ない。しかし、夫の真実に向き合うことで、彼女は絵の世界でも世間に認められるようになる。


リリーの肖像画を書き続ける妻。それまでの型にはまったような彼女の肖像画にリリーはその美しさで色彩を放つ。


自分の体と自分の心の不一致に思い悩む夫はリリーとしての心を受け止めてくれる医者を探し始めるが、彼の思いを正しく理解する医者になかなか出会えない。


何度も誤解され、打ちのめされる中で、やっとのことで彼の意を理解してくれる医者と出会う。性転換手術で体を自分の思う性に戻すこと。


以前のように夫婦としての繋がりが持てなくなった2人だが、心と体を一致させる、間違いを正す手術を受ける時、互いを必要としていることに気づく。


何より互いに心から思いやり、大切に思う存在だということに。


女性としての体を得るため、2度の危険な手術を受けなければならない。命懸けの手術。


様々な葛藤を抱えながらも夫の命懸けの選択を受け入れる妻はひたすらリリーの肖像画を書き続ける。


時代の偏見と妻としての苦しみ。それでも、夫の意思を認め、生きて欲しいとその望みを叶えるために支える姿が胸にくる。


夫婦の純愛というか、人間同士の深い愛情というか…彼らの選んだ道を静かに見つめるようなストーリー。覚悟が決まるまでの妻の葛藤も丁寧に描かれており、監督のトム・スーパーってスゴイなと。登場人物たちに寄り添うタクトの振り方に感動した。


+R15指定の意味はその内容といくつかのシーンのためか。私はちょっとショックだった。でも、あのシーンはリリーとして生きる決意をする夫にとって必要なシーンなんだろう。


とにかく、美しい映画だったということ。ずっしりと重い美しい映画だった。