今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ボーダーライン


監督がドゥニ・ビルヌーブ。そしたら、絶対観とかないと。


初めて観たのは「灼熱の魂」。この映画、強烈だった。お話が、と言うか登場人物たちの因縁が出来過ぎの部分があって、それでちょっと引いちゃったんだけど、未だにスラスラとあらすじが語れるほど印象に残った映画。


そして、「プリズナーズ」「複製された男」といずれも、とっても記憶に残る印象の強い映画だった。私にしては珍しく3本とも劇場で鑑賞してる。


そのビルヌーブ監督の新作となれば、期待は当然高まる。だけど、今までこっちの期待値を上げて良かった試しが無い。


ところが、本作は期待に違わぬ凄い映画。


まず初っ端から物凄い衝撃。主人公の所属するFBIの誘拐担当グループが、武装して襲撃した犯人の隠れ家には数十名の遺体が隠されていた。スクリーンをまともに見られない恐怖の映像。


姿の見えない犯人と戦う捜査官たち。


主人公の女性捜査官はその現場経験が上層部に認められ、メキシコ国境付近での得体の知れない混成部隊の作戦に引き抜かれる。


彼女がなぜそのチームに招集されたのか、真の理由は映画終盤で明かされる。それは彼女の思いを裏切るものだった。さらに、法の元での捜査を信条とする彼女たち一般の捜査官には予想も出来ない現実が襲いかかり、彼女を混乱させていく。


最初から最後まで緊張感が途切れることがない。何を考えているか分からない残虐な犯人との戦いに身を置く捜査官たち。アメリカの警察組織の成り立ちが分かるとずいぶん理解も違うかな。百戦錬磨と言えなくもない彼らの仕事ぶり。とにかく、フィクションとは思えないリアルな緊張感。


後半、全員が暗視スコープを装備して、敵のアジトというか抜け道を制圧する場面。スクリーンに映し出される暗視映像にあれほどハラハラとしたのは初めてだ。


ドキドキと相まって胸を打つかのような音楽も効果的で、観てる方は終始張りつめたように固まってしまう。


メキシコで検察官として、麻薬の密売ルートを操作していた男はその報復として妻の首を切り落とされ、娘を酸の中に放り込まれて殺された。だから、その復讐のために同じ目的を持つ者であれば、その出処などお構い無しに仕事を受け、捜査に参加し、目的を達する。


演じるヴェニチオ・デル・トロの怪しさがたまらない。作戦を指揮するCIAの男はジョッシュ・ブローリンが演じ、ある意味、優等生捜査官の主人公(エミリー・ブラント)と違う星の人かと思うほどの腹の坐り具合だ。


メキシコの警察車両に先導されて、FBIの車列がただ走るだけなのに、それだけでハラハラしてしまう映画なんて、そう無いよねぇ。


法を無視した操作方法に憤懣やるかた無い主人公は、ラストで「狼にはなれない」と言われ、警察官としての素養さえ、否定されてしまう。


中途半端に顔を突っ込むと知らなくて良いことまで知り、結果、命を縮めることになる。そうした現実を突きつけられる。


日常風景の中にけして綺麗事では済まない現実が実際にあるのだと。


彼女はラストで狼に拳銃を向ける。ところが、彼は怯えるどころか、自ら正面に立ち、姿を晒す。その姿に彼女は引き金を引けない。法の元での解決…彼女の信念が邪魔するのだ。


大国の正義(あくまでも、彼らの言う正義だし…)の前で一個人の正義や信念は、簡単に押し潰されてしまう。


その怖い現実をただただ見せられる。ハッピーエンドでもないし、感動ドラマでもないし、それでも鑑賞後の満足度は高い。


そう言えば、原題が劇中に登場するメキシコの警察官の名前と同じだった。シビアな急襲作戦のお話なのに、ごく普通の警察官の生活が差し込まれていて、彼は何者なのかと不思議だった。


終盤で彼の本当の姿が解き明かされるのだけど、物語的にはさして重要な人物では無かったし…


彼の名前は何かを象徴するものなのかしら?