今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ルーム


今年のアカデミー賞主演女優賞受賞作品。他にも取った?


主演のブリー・ラーソンは昨年秋に日本で公開された小品「ショート・ターム」に出演していた。


家庭の事情などで一時的に施設で子供を預かる「ショート・ターム」をテーマにした映画で、子供たちの不安定な日常と心の葛藤に寄り添う施設の職員たちにスポットを当てた作品で、とても印象深い映画だった。


その女優さんが主演女優賞を受賞した「ルーム」


17歳の時、ある男から犬の様子を見てほしいと声をかけられ、親切心からついて行き、誘拐監禁された少女。彼女はレイプされ、小さな納屋に閉じ込められたまま母親になった。


映画は誘拐から7年経ち、彼女の息子が5歳になったところから始まる。


納屋で生まれた息子は壁の外を知らない。唯一、天窓から見える景色が彼の宇宙。そんな彼に1つ1つ世界があることを教えていく母親。


しかし、限られた「部屋」の中しか知らない息子に壁の外を理解させるのは難しい。


定期的に食料を届けに来る男。その度に息子は洋服ダンスに身を隠し、男が去るのを息を殺して待ち続ける。少年にとってベッドと浴槽と小さなシンクしかない部屋は大きな無限の宇宙。


息子の成長に合わせ、様々なことを語り聞かせていくのも限界に感じ始めた母親は意を決する。


このまま、いつ解放されるとも知れぬ現状にピリオドを打とうと。


壁の向こうの新しい世界に息子を解き放つ。


見たことも無い世界で、助けを求めることは息子にとって、どれほど勇気のいることか。彼は躊躇するが、どんなに嫌がっても、息子を世界に飛び立たせるために厳しく言い聞かせながら、1つ1つ準備を重ねる。


そして、彼らはいくつもの幸運と人々の助けを得て、元の世界に戻ってくる。


しかし、7年の歳月は取り戻しようもなく、当時とは大きな変化が起きていた。さらに彼女達母子への眼差しは温かいものばかりではないことが分かってくる。


広い壁の外の世界を知らなかった息子にとって、そこは安住の地とは言えず、死にものぐるいで脱出してきた「部屋」に帰りたいとさえ言い出す始末。


元の世界に戻ることができた母親には理解出来ない息子の状態。小さな部屋の中ではたった2人だけの濃密な関係が誰にも邪魔されることなく維持できた。母親のコントロールの元に時間を重ねていくことができた。


しかし、扉の向こうの世界では、互いにそれぞれの世界が広がっていく。きっと、母親には分かっていたことなんだろうが、息子は自分の目で、自分の手で新たな世界を知り、学んでいく。


その吸収の速さに母親自身が戸惑って、道を見失ってしまう。


前半、部屋の中での生活は母親無しには語れず、確かに主演としての機能を果たしてるかのように見える。


しかし、壁の外に出てからは、彼女の存在感は全くと言っていいほどスクリーンから消え去ってしまう。


それほどに息子役のジェイコブ君の姿が強い光を放つ。物語の流れとはいえ、彼がいなくては母子の解放には繋がらなかったし、結局この映画は1人の少年のうちに秘められた可能性の物語として強く印象に残る。


ストーリーが衝撃的で、拉致監禁から解放されて良かったで終わるのではなく、その後の葛藤まで描くものだったので注目度も高かったのだろう。解放後の後半は様々な葛藤に苦しむ場面が続いた。


しかし、彼女からその苦しみがほとんど伝わってこなかった。残念ながら、苦しむ様子を演じてるようにしか見えなかった。


少なくとも息子の存在無しには、息子役の子役俳優の好演無しには、母親役は評価されなかったのではないか。


そういう意味では、彼女の主演女優賞はちょっとどうなのかな?と素人考えが浮かぶ。むしろ、ジェイコブ君に何か…と思ってしまった。


凄い子役ちゃんが登場したものだ。何事もなく(汗)、今後もスクリーンで活躍してほしいと切に願う。