今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

湯を沸かすほどの熱い愛


試写にて鑑賞。こんなこと言いたくないけど、やっぱり役者によって作品の出来不出来は大きな影響を受けるのだと実感した。


ダメで優しい人を演じたら、オダギリジョーは輝くのだ。妙にカッコ良かったり、妙に悪いヤツを演じるのは、別にオダギリジョーじゃなくても誰でも出来る。でも、この映画の「お父ちゃん」は彼しか出来ないのだ。


線が細くて美しい宮沢りえも儚い美しさを見せるより、肝っ玉の据わったオバサンを演じるとさらに輝くのだ。


まさにそんなぴったりハマった夫婦が、なんだかネジ曲がった日常を一気に巻き戻して始まる家族再生のお話。


全身に癌が転移し、余命2〜3ヵ月と診断されたお母ちゃんは1年前にフラリと出ていった夫を探して連れ戻し、家業の銭湯を再開する。


お父ちゃんには昔浮気した女との間に生まれた娘がついてきた。ある日突然父だと現れた男の元に置き去りされたあゆ子ちゃん。


学校でイジメにあって毎日が憂鬱な高校生の娘あずみちゃん。


この2人にとっても、新たな生活は困惑の毎日だ。突然現れた妹に混乱しつつ、受け入れていくあずみちゃん。


イジメに負けそうになってる時、お母ちゃんは言った。「今行かないと行けなくなる」と。必死で向き合ってくれるお母ちゃんの強さを少し見習って、頑張ってイジメに立ち向かうあずみちゃん。


もう、オバサンは涙が枯れるほど泣きました。そして、死ぬほどの努力をして学校に行ったあずみちゃんの帰りを店の前で待ち続けるお母ちゃんの姿を見たあゆ子ちゃんは、突然いなくなったママとの約束を思い出す。


誕生日には迎えにくるというママの言葉にすがるように番台のお金をくすねて以前住んでいたアパートの前で待つあゆ子ちゃん。ママは待ってると思ったんだろうな。いや、思いたかったんだろうな。


でも、迎えに来たのは双葉お母ちゃんだった。双葉お母ちゃんに抱きしめられて、小学生のあゆ子ちゃんは自分で、自分の居る場所を決めた。


こうして、新しい家族に芽生えた信頼と絆。


体が動くうちにお母ちゃんは娘2人を連れて旅に出る。そこで、あずみちゃんは自分の出生の秘密を知り、さらに大人になっていく。


旅先で出会った青年に目的を持たせ、あずみちゃんに大事な話を伝えたお母ちゃんは、一仕事終えて、疲れてしまった。そして、あずみちゃんとあゆ子ちゃん姉妹はお母ちゃんの病気を知る。


とにかく、全編涙が止まらない。個人的には、あずみちゃんのイジメ問題は胸を突かれた。長男がイジメにあった時、私はお母ちゃんと同じ言葉を息子にかけ、息子はあずみちゃんと同じように「そんなに強くない」と泣いた。


それでも、学校に行った息子の帰りを玄関のところで待っていた…映画と全く同じ。


無理矢理立ち上がらせて、無理矢理イジメに立ち向かわせて、もしかしたら、もっと酷いイジメにあってもう帰ってこないかもしれない…そこまで考えて、手が震えて、私は間違ったかもしれないと凄く苦しんだ。


でも、息子が帰ってきた。その時の気持ちは忘れられない。


そんな特別な感情が働いたから、余計かもしれないけど、お母ちゃんのやることなす事、涙を誘った。


でも、ただ感動のお涙頂戴って感じじゃなくて、お母ちゃんはしっかりと地に足つけて生きてる。その時が来るまで、しっかりと。


家族のエピソードとして、ちょっと笑えるシーンも盛り込みながら、しっかりと生きるお母ちゃんを中心にみんなが成長していく。


お母ちゃんは元々肝っ玉の据わった人なんだろうけれど、余命宣告をされたからこそ、なおさら、全てを受け入れていく勇気を得たんだろう。だって、彼女にはもう後悔する時間なんて残ってないんだもの。


お話は大いなる奇跡が起きることもなく、末期癌のお母ちゃんは残された人生を全うしてこの世を去る。


精一杯できる限りの望みを叶えてやりたいとお母ちゃんに「組体操」を見せるお父ちゃん。このくだりは笑えて泣ける。映画の中の小さな伏線をちゃんと拾い上げて、形にしていく。


そして、この場面の「死にたくない」と嗚咽するお母ちゃんの姿で終わっても何の問題も無いように見えたこの物語。


実はこの後が大事だった。


なんで、あそこが感動のラストシーンじゃないのか。なんで、お父ちゃんの家業が銭湯なのか。なんで、探偵が霊柩車を運転してるのか…全部、しっくりと収まるラストが最高でした。


しっかりと役にハマった俳優が、しっかりと演じ、その中で子役がまるで素のままの姿を見せてるかのようにのびのびと演じてる。


久しぶりに邦画を観たんだけど、こんなにも心に響く映画は滅多にない。


ぜひ、劇場で観てください。そして、自分に照らして考えてみてください。私もそうしてるから…