思い入ればかりが膨らんで、素晴らしい才能がありながら、上手く小説として成立させることが出来ない売れない作家トマス・ウルフをジュード・ロウが演じる。
あちこちたらい回しにされ、最後に辿りつたのは、ヘミングウェイやフィッツジェラルドを見出した編集者パーキンズ。編集者は黒子に徹するという信念の持ち主である彼を演じるのがコリン・ファース。
コリン・ファースはこういう落ち着いた役柄がお似合い。
呆れるほど膨大な分量の原稿を前に「まず読んでから」と言えるプロの目が、トムの才能を見出す。素晴らしい言葉と表現。ただ、人に引きつけるのはそれだけではなく、同じ意味なら簡潔に伝える方が相手に伝わりやすい。
そうした作家としての手法をまるで父親のように時に暖かく、時に厳しくトムに教え諭すパーキンズ。
その結びつきは強く、編集の作業に入ると彼らは家族そっちのけで没頭していく。
その結果、2つの大作を世に送り出すことが出来た。こうした作業を見て、私は小説を上梓することの大変さを初めて知った。2作目にパーキンズへの謝辞を添えるように頼むトムの気持ちがよく分かった。
パーキンズは編集者として、仕事の上だけで繋がっているのではなく、かつて彼が見出したヘミングウェイやフィッツジェラルドも作中に登場し、彼らの生活についても心を砕いてることが分かる。
それは、彼の見出した「天才」たちを暖かく包み込む父親のような、深い絆に結ばれた友のような存在だったのだと。
トムもその天才の1人だった。天才だからこそなのか、他の人には理解出来ない行動を取り始める。共に暮らした女性を置いて、1人でヨーロッパに旅に出てしまったり、取り憑かれたように原稿を書き出したり…
最後は旅先で倒れてしまうが、運ばれた病院は彼の父親が亡くなった病院だった。
時間としては短かったのかもしれないが、パーキンズにとっては、トムとの時間は深く豊かな時間だったのかも。
何人ものなの知れた作家を見出したパーキンズを描く映画で、取り上げた作家がトマス・ウルフだという事に意味があるのかな?
トムが際立った天才で、パーキンズが特に思い入れが強かった作家なのかもしれない。
私はトマス・ウルフを知らない。アメリカでベストセラーになったくらいだから、日本でも有名な小説家なんだろう。でも、ヘミングウェイやフィッツジェラルドと比べるとどうかな。
トマス・ウルフの小説を読んでいる人なら、もっと楽しめたんじゃないだろうか。そこが残念。
ところで、原題は「GENIUS(天才)」。これはトムのことを指してると思うんだけど、邦題は副題にパーキンズの名前を持ってきてる。トムに関して、邦題のタイトルからは彼が主人公でとは想像出来ない。
ある意味、絶妙な邦題だと思った。