年末になると「第九」を聞いたり、歌ったりするのが大好きな日本人。私もその1人のようで…
タイトル通り、ベートーヴェンの交響曲9つ全てを1日で楽しむという、演奏する方も凄いけど、聞く方もそれなりに覚悟が必要な演奏会(^▽^;)
企画運営は、作曲家の三枝成彰さん。指揮は今年も「炎のコバケン」こと小林研一郎さんが全てのタクトを振ります。
演奏は、岩城弘之メモリアル・オーケストラ…亡くなった岩城弘之さんの名前を冠したオーケストラ。コンサートマスター篠崎史紀さんを中心に集まったメンバー。
演奏メンバーは毎年少しずつ変更がありますが、基本メンバーはN響の方たち。そこに個人で演奏活動をしてる奏者や各地の交響楽団で主席を務めるメンバーが集う。さらに毎年何人か学生さんが含まれたりして…
年々、メンバーが若手に切り替わってきていて、世代交代が進んでるかな。でも、要所はベテランや中堅の実力者がしっかりと抑えてるという布陣のようで。
まぁ、簡単に言うと一流の方達による夢の一夜ということ。
12時開場、13時開演。これまで何回か参戦してるけど、開場時間にはロビーから溢れるほど長蛇の列だったのに、今回は5分前でも入口からすぐのところに。「あれ?出足、遅い?」
それは開場されてからも同じで、開演に向けて三々五々集まってくる観客の出足が遅い。開演5分前のチャイムがなる頃になって、やっと埋まってくる感じだ。
それでも、ひとたび演奏が始まれば、軽快なリズムを刻むコバケンさんの後ろ姿が安心感を与えてくれる。
今回は演奏プログラムに若干の変化あり。交響曲を2つずつ演奏し、休憩が入るパターンだったこれまでだが、今回は3番「英雄」の後15分の休憩が入り、4番へ。4番の直後に三枝成彰さんからの後援企業の紹介とベートーヴェンに関するお話が15分あって、45分の休憩に入る。
その後は、また2つ。6番の後に90分の大休憩。ここで、ほとんどの観客が外出して上野の町で夕食を済ませる。8番の後に再び45分休憩。そして、万全の態勢で最後の「第九」へ。
この休憩のリズムが定着してきたかな。東京文化会館で、こんなに長い公演は無いだろうから、もちろんそれ用に設計されてるワケではないし、なにしろ最近の建物では無いから、エレベーターやエスカレーターも館内には無い。そんな状況でトータル5時間以上の演奏を聞かせるなら、やはり、「休憩」は大きい。
おかげで、そんなに負担なく全部を聞くことが出来た。こうした運営側の様々なアプローチに感謝。
というこで、肝心の演奏へ。。。
私は音楽を聞くのは好きだけど、あの作曲家がどうだとか、この奏者がどうだとか、全然詳しくない(^▽^;)
聞いていて、心が癒されるだけで十分。
だから、何のこだわりもないし、いろいろとチェックする目も持ち合わせてないので、ただ感じたままを。。。
まず交響曲の番号順に1番から演奏していくのだけど、最初の1番&2番が私は大好き。なぜかと言うと、この後演奏される3番以降の交響曲のフレーズにちょっと似た感じの部分がちょこちょこと登場するからなのだ。
ベートーヴェンの「まとめ」的な曲に聞こえるから、とても楽しい。そして、今回は特に寝不足でもないのに、気持ちよく聞いてるうちにうつらうつらと眠気が襲ってきた。α波出まくりなのね。
次の3番「英雄」。第3楽章からはもう気持ちが乗ってくる感じ。4番はその興奮を落ち着かせてくれる。次の5番6番の関係も似てる。
奇数番の交響曲は大いに盛り上げる曲調で、高揚感たっぷり。続く偶数番の交響曲はそれを受けて、穏やかに柔らかく、そして爽やかに奏でられていく感じがする。
今回も5番「運命」は、鳥肌が立った。トロンボーンのファファファ~~~ンという叫びと、様々な音の影にいながらもピッコロの高いヒュルルルル~~~という音とが特に印象に残った。
いつもはホールサイドのA席で横から聞いてきたけど、今回は中央ブロックに近いS席に移動したので、聞こえ方も違ったのかもしれない。
特にピッコロ奏者の手元まで見えたので、全体の音の中でその音を聞き取りながら、また新たな楽しみ方ができた。
5番で高揚した気持ちを6番「田園」で、それこそ田園を駆け抜ける爽やかな風に吹かれたような心持ちでちょっと落ち着かせてもらって、休憩後の7番に期待を持たせてもらった。
そして、大休憩後の7番は、もう今晩はこれで終わりでも誰も文句言わないよってぐらい渾身の演奏で、観客も大いに盛り上がった。でも、その直後に奏者の席替えをする僅かな時間だけで、全てを切り替えて8番って、聞く方にも演奏する方にもかなり過酷だよなぁ(^▽^;)
でも、一気に盛り上がった場内をしっかりと落ち着かせて聞かせる8番もなかなかだった。
そして、第九。。。
合唱団も素晴らしい。ソロの歌い手さんも合唱団の声に負けじと伸びやかな声を轟かせる。それらの歌声を引き出す演奏と相まって、最高のフィナーレだ。
今回はほぼタイムスケジュール通りの進行で、午前0時5分前に演奏が終了した。
コバケンさんは奏者たちを大いに讃えた後、「あけましておめでとうございます」と観客に呼びかけられた。
観客たちが一斉にホールの時計に目を向けて、クスクスと笑い出す。「えっ」という顔をされたコバケンさんは両手で顔を覆われて恥ずかしさを。。。
まだ年が明けてなかった…(^▽^;)
結局、5秒まえからのカウントダウンで。奏者と観客で年越し。良い年越しになりました。
その後は、恒例になったロビーでの「ニューイヤー・ミニコンサート」。コンマスの篠崎史紀さんを中心にN響の「いつもの」メンバー数人で。あれ?譜面台がいつもより多いぞ!!
そう、今回は篠崎さんが「今回は少し人数が多いです」と若手メンバーを引き連れてきた。4月からN響に入団するバイオリニスト。4月からN響のビオラの主席になる奏者。4月から読響の主席になるコントラバス奏者。それぞれを紹介してくれて、ウィンナーワルツを。
こういう観客を大切にする姿が素晴らしいと思う。いつもコンマスがそれを率先してるっていうのが…
今回は翌日の元旦に、鹿島アントラーズが天皇杯決勝に出るので、楽屋口での出待ちはせずにまっすぐ帰宅。いくら終夜運転とはいえ、タイミングを外すと30分で帰れるものが1時間以上かかってしまうから…
そうそう、今回5番「運命」が始まる時にちょっとしたアクシデントが…奏者たちがぞろぞろと壇上にあらわれ、篠崎さんの合図で調弦が始まった。それが終わり、後は指揮者登場を待つばかり…
でも、なかなかコバケンさんが出てこない。「あれ?」。場内だけじゃなく、奏者たちも「あれ?」って表情に。舞台袖にスーツを着たマネージャーの姿が。マネージャーが第1バイオリンの1番後ろの奏者に何か耳打ち。それが前の席の奏者にと伝えられ、篠崎さんの元に。
すると、舞台の1番後方からススススーッと駆け込んでくる燕尾服の紳士!?
ホルンを脇に抱えた奏者が着席前に直立し深く頭を垂れる。「あぁ、コバケンさんじゃなかったんだ」と妙にホッとした。体調不良じゃ困るもの。
ホルン奏者は冷や汗ものだったろうな。でも、楽団メンバーも私たち観客もにこにこと笑顔で彼を迎えた。だって、この長時間だもの、もし体調不良なんてことになったら、彼にとっても残念だろうし。
楽器のトラブルなのか、とにかく元気に登場してくれたので一安心。そして、コバケンさんが登場、演奏が始まるとすぐに彼のホルンのパートが。さすがプロでしっかりと演奏されていた。
前回の演奏会は予定していた独唱の1人が体調不良で交代していたし、当日には楽団員が1人、体調不良で医者に行ったということもあった。診察を受けて再度演奏に戻ったそうだが、やはり長丁場だから、なにより体調は心配だ。
バイオリンをはじめとする弦楽器は1番から9番まで、通しでの演奏だ。第1バイオリンには前回と同じメンバーが2人、ビオラにも今回は2人の女性がいた。体力面で、女性が同等にやりとげるのはやっぱり凄い。
三枝成彰さんの話では、このコンサートにはお金の面も準備の面も普通のコンサートの4回分の人手がかかってるそうだ。
当然、演奏者たちの体の負担も4回分なんだろう。お疲れ様。コバケンさんも本当にお疲れ様でした。なにしろ、1曲演奏が終わる度にやたらと丁寧に奏者を讃える。こんなふうに演奏者を讃える姿勢は凄いな。ソロパートがある奏者にはそこまでいって握手を求める。こんな先輩の姿を見て育つ若手は羨ましい。
また、次回、是非とも東京文化会館に足を運びたい。