今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

たかが世界の終わり


俳優であり、監督であるグザビエ・ドラン。「天才」とよばれる彼について、名前しか知らない(汗)俳優として出演してる映画をまだ観たことがないから。


俳優として出演している映画も我が家に録画してあるんだけど、なかなかチャンスが無くて…今度、ちゃんと見てみよう。


監督作品も「マミー/Mammy」しか観たことがない(汗)だから、彼の作風について、あれこれ語れない。でも、本作は面白かった…笑えるという意味じゃなくてね。


様々な場面で、登場人物の表情をアップにする手法は「マミー」でも見られた。彼独特の場面の切り取り方なのかも。アップにして彼らの表情に迫るからこそ、喋る言葉以上に彼らの心の内が読み取れるように感じる。目は口ほどに物を言い…ってことだ。


12年ぶりに実家に帰ってくる青年。実家には彼の帰還を待ちわびて興奮気味の母と幼い頃の記憶しかない妹、そして、弟の存在にいちいち過剰反応する兄と長い不在の間に彼の妻となった義姉がいる。


なぜ主人公が実家を離れたのか、なぜ12年も経って帰ってきたのか。全てを知る家族はいない。


長い不在の間、家族それぞれの捉え方で、それぞれの心の中に主人公は居た。そういう形で、時は流れていた。ところが、突然に帰還した主人公を前にして、それぞれの心の均衡が一気に崩れていく。


特に兄の苛立ちには驚いた。なぜ、あそこまで弟に反発するのか。多分、彼らの成長過程において、どうしても拭えない心の傷を負ったんだろう。それとも、田舎の街で家族と暮らす平凡な自分の今と、好き勝手に街へ飛び出したのに作家として成功した弟の今との間で葛藤してるのか。


夫の横で心配そうに見つめる妻。マリオン・コティヤール演じる妻の存在は、この映画の中で大きなポイントだと思う。妻は言葉がまだ上手く使いこなせない。だから、会話はぎこちない。でも、一生懸命語ろうとする。言葉だけでなく、彼女の表情はいろんな感情を見せる。マリオン・コティヤールの豊かな表現力に驚いた。


主人公は、大切なことを伝えに帰ってきた。でも、それを迎える家族は、突然の帰還の持つ意味をはかりかね、真実を知るチャンスを遠ざける。家族とは、なんと難しい存在なのか…1番身近で、1番遠い。


ラストは結末をハッキリさせずに終わっているが、ドアに手をかけたところで、ある程度予想はつく。でも、どうだろう。彼が空港に向かう間に何か変化が訪れるかも…このラストが良いな。余韻が残るラストが。


そうそう、凄いなって思ったところ。主人公は、自分のこれからを伝えるためにやって来たのに、なかなか切り出せない。それが今回の帰還の全てなのに。そのもどかしさと苛立ち、また体調の変化も相まって、どんどん顔色が悪くなっていく。この辺の演出は凄い。


人物のアップを多用することで、表情から彼らの心情を描いたり、運転中の車内の場面では後部座席からの視点で描いたり、場面転換での音楽をいきなりボリューム・アップしたり、いろいろと独特な表現方法。ストーリーとはまた別なところにも楽しみがある。


「マミー」も良かったので、私、この監督の作品好きなのかも。