今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

わたしは、ダニエル・ブレイク


お休みだからなのか、満席完売の劇場で鑑賞。終映後、場内で拍手が起きた。試写会でもないのに珍しい。でも、拍手する価値ありのさすが、ケン・ローチ、さすがカンヌ・パルムドール受賞。


ケン・ローチ監督は、なかなかお堅い社会派作品を多く世に送り出してる人。引退を撤回して製作した作品だけあって、やっぱり社会の問題に鋭く切り込んでいる。


自分ではどうしようもない貧困のループから抜け出せなくなってしまった善良な普通の人々の日常に目を向けた作品。


主人公は初老の男。数年前に妻を亡くした。妻は心が壊れ、晩年は彼の介護によって生活していた。大工として40年のキャリアがある彼は介護と仕事の両立で大変な日々を送ってきたのであるが、妻亡き後、その負担は軽くなるどころか、妻がいたから頑張れたのだと痛感している。


そんな彼は大工仕事の現場で発作を起こし、倒れそうになる。医師の診断は心臓病。そして、働くことを禁止される。


仕事はしたいが、ドクター・ストップがかかっているので、働けない。そこで、役所に支援を申し込む。


ところが、融通が利かず、全て型通りの対応で、まるで心が感じられない役所の係員に閉口してしまう。古い時代を生きた彼に、現代の何事もデジタル化された世の中の仕組みはどうにも理解できない。


そんな時、シングルマザーで2人の子供を育てる若い女性と知り合う。彼女も立ち退きを迫られたことをきっかけにホームレスの収容施設で暮らし、役所の紹介で郊外の街に越してきた。


その日の食べ物にさえ困る日々。公的支援を受けたくても、行政側は彼らの都合で判断し、通り一遍の対応しかしない。


確かに多くの窓口業務をこなす彼らに、それぞれの事情を聞く暇も余裕も無いのかもしれないが、要支援者たちの思いは何一つ汲み取られることは無い。


たとえ、支援を受けようとも人としての人としての尊厳は守りたい。ダニエルの思いは誰にも理解できるが、社会の制度はそれを認めない。


社会の不条理とも言える数々の問題点を1人の男の姿を通して描くこの映画。主人公が心臓病だということで、迎えるラストをある程度予想できてしまうのだが、それでも、彼らの置かれた状況に涙を誘われるし、そこに至るまでにどうにかならなかったのかと悔しい思いをする。


どこの国にも起こっている問題であり、すぐさま社会的な解決策が見つかるとも思えないが、ダニエルの言葉にあるように何も出来ないかもしれないけれど、「隣人」や「困っている人」に手を差し伸べる気持ちだけは持ち続けたいと思った。


是非ご覧あれ。