今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

あなたを抱きしめる日まで


試写会にて鑑賞…
初めて虎ノ門ニッショーホールに!!
日本消防会館内にあるホールだから、「ニッショーホール」!!
なんと、700人以上入るホールに200人限定の試写会だったので、ゆっくりと鑑賞できた。


映画の内容から言っても、ゆっくりと鑑賞するのにぴったりな作品。


舞台はアイルランド


50年前、10代の頃。
祭で知り合った男と恋に落ちた女の子。彼女はその男の子供を妊娠する。


当時は結婚前の若い女性が妊娠すると家族までが忌まわしいこととして、家族の縁を切って無かったことにしようとする時代。


親の助けを得られなかったフェロミナは、父親から修道院に預けられる。


修道院は、罪を犯した少女たちを預かって更正させるという表向きの体裁を繕い、この影で、少女たちを奴隷のごとく扱い、自由を与えず、設備の整わない分娩を強要する。


親からも疎まれ、唯一の拠り所である修道院でさえ、彼女たちにとっては地獄も同然だ。


休みなく働かされ、日に1時間しか自分の子供に会えない生活。その中で、自由を得るために修道院を出ようとすれば、一文無しに近い彼女たちにこれまでの生活の保障として高い金銭を要求される。


がんじがらめになった彼女たちに更に修道院は追い打ちをかける。


修道院で生まれ育った子供たちは小さなうちにアメリカの金持ちに養子として出される。不幸な子供と子の欲しい親を引き合わせた修道院はそれで金銭を得ていた。


あからさまな人身売買だ。


しかし、少女たちは信仰心をもって、自らの苦境をとらえる。


修道院に連れてこられた少女たちの中には劣悪な環境下での出産で子を亡くすだけでなく、自らの命も落とす場合も少なくなかった。


そんななかにあって、命が助かっただけでも運が良かったのだとフェロミナは言う。


老いて、歩くのも大変だった体が人工股関節の手術を受けたことで、自由に動けるようになり、生き別れとなった息子の50歳の誕生日を迎え、ずっと心の奥底に隠してきた真実を娘に語る。


娘は仕事先で偶然出会った元ジャーナリストの男に母の息子、自分の兄の消息を探す手助けを頼む。


彼は政治スキャンダルに巻き込まれ、仕事も無い。最初は三面記事的な仕事の内容に二の足を踏んでいた彼だが、編集長に押し切られ、フェロミナの息子探しの旅に同行することになる。


彼らの旅はアメリカにまで…


そこで、息子が仕事の面でも成功をおさめ、愛する人と出会ったことも知る。


ところが、息子は既にこの世の人では無かった。


必死で息子の消息を尋ねていた時は、もし彼が不幸だったらと考えたり、生まれた国アイルランドを忘れてしまったのでないかと悩んだり、不安ばかりが大きくなっていく日々だった。


しかし、その不安を解消する機会され与えられなかったフェロミナ。一度は帰国を考えた彼女だが、空港まで来たところで、息子の生前の姿を知りたいと思い直し、息子が最後まで一緒にいた恋人に会いに行くことにする。


旅の同行者マーティンは、それこそ年齢的にはフェロミナの息子と言える年頃。


いつしか、仕事復帰の野心に駆られた記者としてではなく、1人の友人として寄り添うようになっていく。


なかなか会ってくれない息子の恋人。会って話してみるとそれは誤解によるものと判明した。息子は生前自分の最期を知り、恋人と共に生まれた修道院を訪ねていた。修道院で受けた説明では、母親に捨てられ、今では母親を見つけることは出来ないと…


そうした誤解が母親を遠ざけたのだ。


息子は死後、なんと修道院の墓地に葬られた。


その消息を尋ねて歩いた旅は出発点に戻ってきた。


そこで、修道院が不幸な少女たちから子供を奪い取り、養子縁組みを支援するとみせながら、人身売買で金儲けをしていた事実に行き当たる。


マーティンの追求にも最後まで罪を認めない修道女。


それどころか、自分は一生を信仰に捧げ、男と交わることなく生きてきた。罪を犯したのは少女たちだと。


こんな終わり方ってあるか…と観てる側が憤りを感じるラストで、主人公フェロミナは言う「あなたを赦す」と…


本当に苦しんだ人だからこそ、人の痛みが分かるのだ。


だからこそ、人を赦すことが出来るのだ。


あまりに個人的なことにかかわるフェロミナの息子探しの旅。記事にすることを躊躇うマーティンが、その気持ちを伝えるとフェロミナは毅然として言う「知ってもらいたい」と。


凛とした佇まいのフェロミナ…


ジュディ・デンチの姿が全てだ。


大きな悲しみと絶望を胸の奥底に閉じこめ、じっと生きてきた女性。普段の生活では、恋愛小説に一喜一憂する可愛らしい女性。


そうした様々な姿をみせるデンチの演技がとても暖かく深い…


こんなおばあちゃんになりたいとそう思わせる姿。


お話は辛く悲しいものだけれど、一生懸命生きていけば、思いは通じるのだと…


良い映画だった。