実際にフルートベール駅で起きた悲劇を映画化…
その日は大晦日、浮かれ気分の乗客でごった返す電車内。
かつてのトラブルが尾を引いてるグループ同士のにらみ合いが…
手を出したのは相手だけれど、狭い車内での殴り合いはすぐに警官が駆けつけ、主人公達のグループをホームに…
車内の乗客はもめ事の原因は当然彼らだけではないことを知っている。
事情を知らないで、がなり立てているのは警官の方だ。
自分達の主張をする主人公達を必死に押さえつけ、拳銃を持ち出した警官が…
そこでの出来事は現場に居た数人の携帯から動画が発信され、無抵抗の市民に警官が発砲、死に至らしめた事実が広く伝わった。
この日命を落とした青年が、その1日をどのように過ごしたのか、この映画はその1日を淡々と映し出す。
22歳というまだ若い青年。彼にはまだ籍を入れていない彼女と、2人の間に生まれた娘が…
薬の売人をしていたため、刑務所に収監された過去を持つ。
もう刑務所には行きたくないけれど、なかなか働き場所が無い。せっかく就いた仕事も遅刻が原因でクビになってしまう。
気持ちだけが焦る…
どうしても払わなければならない家賃のために再び売人に戻るしかない現実。
しかし、彼は踏みとどまり、その日大晦日の母の誕生日を機に前を向こうとする。
きっと、その意味でもカウントダウンの花火を彼女と2人で見ることは大切なことだったのだろう。
毎年、花火見物では渋滞に巻き込まれるので、母親のアドバイスで車で行くより電車で出かけた彼ら。
そのことが、主人公達に大きな災難となって降りかかってしまう。
胸に銃弾を受けた主人公は家族や友人の祈りも虚しく、夜明けと共に息を引き取る。
恋人の姉のところに預けられていた娘は迎えに来ない父親の所在を尋ねる。
その横顔がたまらなく悲しい。
事件は結局警官の意に添う形で終結を見たようだ。
おそらく、事件としてはそんなに大きく扱われる物ではなかったのだろう。けれど、主人公がなぜ撃たれたのか、その点を知る人たちの思いが大きな「声」となって、世間の人々の知るところとなったのだろう。
この映画は、敢えて、関係した警官の対応を糾弾するのでもなく、主人公の無念を強調するのでもなく、ただ、その時を迎えるまでの青年の姿を追う。
どんな人にもそこに至る人生がある。
まさか、彼に明日が来ないとは誰も想像していないそんな日常を見せられることで、より悲しさが増してくる。
心が締め付けられる、そんな映画だ。