今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

妻への家路


公開2日目にTOHOシネマズシャンテで鑑賞。


私的には久しぶりのチャン・イーモウ監督作。


主演コン・リーとのタッグは8年ぶりだとか…「王妃の紋章」って、もうそんなに前なんだ…と年月の経つ早さに愕然とする(汗)


舞台は、中国を大きな嵐に巻き込んだ文化大革命の時期のとある町。


教師の母と舞踏団に所属する娘。娘にとって、舞台での主演がかかった大切な時期に突然の来訪者が。


その男こそ、母が待ち続けている父親だ。彼は政治犯として収容所送りになり、家族会いたさに脱走を試みたらしい。


父が政治犯として追われているために主役の座を得られず、甘んじて端役を受け入れざるを得ない自分の境遇を憐れんだ娘は、母を裏切り、父と母が落ち合う場所を密告する。


その日から、家族は地獄の日々を送ることになる。


結局、踊りを諦めた娘。父を密告するという娘の行為を許せない母。


互いに離れた暮らすようになった2人。そして…


3年後、文化大革命終結し、開放された夫が戻ってみると、妻は夫が収容所送りになったことのストレスが高じて、夫についての記憶に鍵をかけてしまっていた。重度の記憶障害を発症し、夫のことを警察側の男と思い込んで、一切受け入れようとしない。


娘の魔が差したとしか思えないたった1つの過ちが、家族に暗い影を落とす。子供だった娘は、政治犯である父を許せず、彼の写真をことごとく破棄しており、母が父を思い出す手がかりは何1つ無くなっていた。


それでも、苦しい日々を待ち続けた妻を夫はけして諦めない。


家が見える場所に住み、古い写真を探し回り、収容所で書き続けた妻への手紙を読んで聞かせる。


新しく手紙を書き足して、娘との同居を勧めたり、日頃の生活上の注意を伝えたり…


夫のいい付けが書かれている手紙を大切に押し抱く妻。そして、「5日に帰る」という夫の手紙を読んで、駅に駆けつける。駅の出口で他の人に紛れて夫が近づいても彼女は気づかない。


何年も使っていないピアノを調律し、かつて弾いていた曲を聞かせる夫…


思い出の曲は、妻に夫との日々を思い出させたが、そのことで目の前にいる夫を認識するには到らなかった。


こうした日々を重ねて数年経ったある寒い朝。夫は幌付きの自転車に妻を乗せる。妻の手には、夫の名前が書かれたプラカード。


駅の出口に共に立つ2人。


いつか、帰ってくる夫を待つ妻の横で、彼もただ待ち続ける。妻の帰りを…


静かな時の流れの中で確かに強い夫婦の絆が見える。夫の不在がどれほど妻にとって辛いものだったのかを知る。


チャン・イーモウ監督の「初恋のきた道」を思い出した。亡くなった夫を見送る際に年老いた妻は葬列を組むことを希望する。それだけはどうしても譲らない。どれほど彼女にとって夫の存在が大きく強かったのか…


全く別の夫婦の物語だったが、どこかで繋がっているように思った。深い深い繋がりを持つ2人の物語。


涙を誘う静かな映画。


こんな夫婦の絆をどう思いますか?


善良な家族を過酷な嵐に巻き込んだ文化大革命。かつては捕縛する側だった人間が、終結後は立場が逆転してしまう。結局、誰もが過酷な嵐に翻弄されてしまったのだ。


映画に登場する家族は、特別な存在でもなんでもない。こうした、混乱が数多くあったのだろう。


政治に翻弄されるのは、今も昔も変わらない。