今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

草原の河


岩波ホールにて。チベット映画の日本初劇場公開作だそうだ。


主演は小さな女の子。上海の映画祭で史上最年少の女優賞を受賞したそうだ。そりゃあ、そうだろうと思うほど、彼女の存在は光り輝いていた。


多分、4歳か5歳の学校に上がる前の女の子ヤンチェン・ラモ。放牧を生業としている両親と暮らす。父の乗るバイクの荷台にちょこんと股がり、どこまでも続く草原の道を走る。


彼女は会ったことのない祖父の元へと向かっている。祖父と父の関係は彼女の心を波立たせる。ヤンチェンの両親のように放牧を生業とし、厳しい自然の中で暮らす村人たちの尊敬を集める僧侶となった祖父。しかし、父は4年前のある出来事をきっかけに祖父との関わりを一切断っていた。


他人である村人たちが病気療養中の祖父を見舞う中、実の息子だけが頑なに拒み続ける。


しかし、妻にも村人への手前を考えろと言われ、仕方なく、娘を連れて父親の修行先に向かう。しかし、他の村人が見舞う姿を見た彼は、娘1人を父の元に向かわせる。


ヤンチェンが初対面の挨拶をし、受け入れられたにもかかわらず、父親である彼は娘を無理矢理バイクに乗せ、帰路につく。その頑なな父の姿にヤンチェンは心を痛める。


しかし、この出会いがきっかけとなり、ヤンチェン親子の日常が少しずつ動き出す。


とにかく、ヤンチェンに尽きる。美しい草原の中に立つ彼女の姿はなんともいえず、いじらしい。彼女が無言で立つ姿は時に彼女の強い思いを伝えてくる。


彼女には、祖父と父の確執だけでなく、もう1つ大きな心の痛みが出来た。それは、母から伝えられた新しい命の誕生だ。今までは何かあれば「あんまぁ〜(お母さん)」と言えば、何を置いても返事をしてくれた母が、生まれて来る子に取られてしまう。


ヤンチェンはひたすら1人で心を痛める。言葉が少なくなり、父や母との関わりを避けるようになる。繊細な彼女の表情がホントに可愛らしいし、いじらしい。


父が買ってくれた大切なクマのぬいぐるみを赤ちゃんが生まれたら、貸してくれと母に言われたヤンチェン。「イヤだ」と即答。大人には大した事ではなくても、彼女にとっては一大事だ。


ちょうど、畑の種まきの季節。畑の隅にヤンチェンは母の目を盗んで大切なクマを埋める。その時、「赤ちゃんに取られたくなくて、隠したのかな?」と私は思った。でも、ヤンチェンは違うことを考えていた。それがラストの祖父との会話で分かるんだけど、子供って、なんて想像力豊かなんだろうと、こんな会話をラストに持ってくるなんて、なんてステキな映画なんだろうと。


本来は完全なネタバレなんで、書かない方が良いのかと思ったけど、私自身がこのエピソードを忘れたくなくて、確信的にネタバレです(~_~;)種まきの季節だからね。クマを畑に埋めて、春になったら、クマがたくさん畑になると思ったのだ。赤ちゃんに渡しても自分のクマもこれで確保出来るしねd('∀'*)おじいちゃんのお土産にも出来る。スゴイでしょ?


厳しい自然の中で暮らすヤンチェン。祖父の病院を訪ねた時、都会の喧騒に怯えるように小さくなっていた。それでも、祖父とは普通に接していく。子供の持つ順応力の素晴らしさに圧倒される。


祖父と父の確執や兄弟の誕生など、ヤンチェンの波立つ心を落ち着かせたのは、狼に親を噛み殺された子山羊だった。親を亡くし、ミルクを貰うことができなくなった子山羊ジャジェ(確かそんな名前で呼んでいたような…)にミルクを与え、いつも一緒にいた。ジャジェもヤンチェンの姿を探して駆け寄ってくるほど懐いていた。


けれど、ジャジェは成長し、群に馴染み、自力で草を食んで生きていかねばならない時期がくる。ヤンチェンとの繋がりが強いせいで、なかなか群に馴染まないジャジェ。しかし、心を鬼にしてでも群に入れないとこれから生きていかれない。


結局、群に馴染めず、はぐれてしまい、帰ってこないジャジェ。狼に襲われ命を落とす。ヤンチェンは父が山陰に隠したジャジェの変わり果てた姿を見つけてしまう。


自然との付き合い方、自然を相手にする生き方を小さな体で受け止めていくヤンチェン・ラモがたまらなく愛おしい。


テントの祭壇に飾ってあった偽物の御守り(なんて言ったかなぁ…忘れてしまいました…汗)。それを父が見つけたから、子供が出来たと母から聞いたヤンチェンは、父と母の目を盗んで、そのお守りを持ち出し、テントの近くの穴の中に捨ててしまう。「そうかぁ、下の子が生まれてくるのが寂しいんだな。だから、隠したんだなぁ」とその可愛らしさに抱きしめたくなる。


でも、ジャジェの一件や祖父との出会いなどを経験し、少しずつ彼女は大人になっていく。そうして、赤ちゃんを受け入れていく。誰が取ったのかとよその人とケンカした父にお守りのことを正直に告げるのだ。ヤンチェンの感じた寂しさを知った父は何も言わない。


便利な都会の暮らしの中では、こんな豊かな心を育むことはできないのかなぁとヤンチェンの目に映る広大に自然の美しさに胸をうたれた。


どうしようもない苛立ち、寂しさ、悲しさを体いっぱいに受け止めるヤンチェンが草原に突っ伏して寝てしまう。両親だけでなく、彼女の暮らす大地が優しく受け止めてるようだ。


ホントに良い映画を観ることができた。ヤンチェンの様々なエピソードを思いつくままに書き出した結果、なんだか文章の繋がりもめちゃくちゃだけど、多分これが私の素の感想なので、そのままアップします(^◇^;)