今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

残像


アンジェイ・ワイダ監督の遺作。岩波ホールで鑑賞。抵抗の歴史を描く監督として、まさに彼の遺作と言える映画なんだろう。全ての作品を見てるわけではないけれど、どれもみんな重いテーマの映画だった。


ポーランドの実在の画家、シュトゥシェミンスキを描く。国内では誰もが知る画家のようで、かつて、革命の頃は先頭に立って、闘いを呼びかけた芸術家の1人らしい。革命を呼びかけただけあって、革新的な作風のようで、彼の作品を展示する美術館にはデザイン画と言った方が良いような絵が飾られていた。


そんな彼が生きていくために職人として党の幹部の大きな肖像画を書いている場面で、初めて絵らしい絵を書いているのを観た。


彼は、主義主張を無理矢理押し通そうとしたわけじゃなく、社会主義に深く突き進んでいる国の中で、絵画の持つ意味や芸術家の立場を語っただけだ。


それでも、圧政を敷く国家にとって、彼は危険分子なのだ。大学での仕事を追われ、芸術家協会の会員証を取り上げられ、社会主義国家ではなにより大切な配給手帳も手配されない。彼の生きる道は悉く国家の手によって握り潰されていく。


全体主義をもって、国民を統制していく恐怖を感じた。国家にとって、突出した才能は邪魔でしかないのか。才能を認めない国家の迫害の恐ろしさを感じさせる。


迫害を受けて無職となり、食べる物にも事欠く生活、それでも、「自分」を保って生き抜こうとする主人公の姿は胸をつく。


同じ芸術家である別れた妻との間に一人娘がいるが、妻も病に倒れ、亡くなる。時代が時代なら、才能溢れる芸術家の両親を持つ娘として、皆から羨望の目で見られていたであろう。彼女のこれからもきっと厳しいものだろうと思うと。。。


声高に抵抗する人たちには過激な行動が前面に出る場合もある。それが映画化されると妙にドラマチックに描かれたりする。この映画の主人公はけしてそんな状況でなく、時代の流れの中に埋没していく。そこに光を当てるのも映画なんだなぁ。


地味で、重い内容だけど、観て良かった。。。