今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ハクソー・リッジ


舞台は第二次大戦終盤の過酷を極めた沖縄戦での戦闘が中心。そこに衛生兵として立った志願兵の物語。


タイトルの「ハクソーリッジ」は戦場となった鋸のように切り立った崖をさしているらしい。ちゃんと日本の地名があるのだから、彼ら(米軍)の通称でなく、字幕で良いからその地名を表記すべきだと思った。あれでは、そこが沖縄だと分からない。


過去の戦争で親しかった仲間を亡くした父は、除隊後アルコールに溺れ、コントロール出来ない自分の怒りを妻や子に暴力に変え、ぶつけていた。彼は戦争を憎んだ。戦場で行われる全ての暴力を憎んだ。でも、家族に暴力をふるう。大いなる矛盾の中で苦しんでいた。


父を憎み、暴力を憎んだ息子たちは大人になり、1人は自ら進んで入隊し、戦場へ向かった。父の暴力にとうとう気持ちを抑えることが出来なくなったもう1人は、父に銃を向け、危うく殺しかける。その時、彼は2度と武器を手にしないと誓う。


看護婦をしている恋人から医療知識を得る本を借り、彼は勉強を始める。そして、彼もまわりの同世代の青年たちのように戦場に立つことを決意する。しかし、それは武器を持たずに戦うという信念に立ってのことだった。


自分の生半可な信念など戦場では簡単に踏みつけられ、打ち破られてしまうことを隊の上官たちは知っている。だから、訓練に励む主人公をなんとしても除隊させようと軍法会議まで開くのだが、息子の覚悟を知った父が、米軍では誰もが知っている過酷な戦いを共にしたかつての上官を説得し、息子の思いを後押しする。


主人公が、武器を持たずに戦場に立つまでを描く前半と実際の戦場での戦いを描く後半は全く違う映画のようだ。これでもか、これでもかと銃弾が飛び交い、火炎放射される戦場。攻撃にさらされ、倒れる兵士たち。特に火炎放射のシーンはこれまで観た戦争映画でもあまり目にしたことが無かったので、特に沖縄戦独特の描写なのか。。。その描写はショックなシーンでもある。


日本軍の反撃にあい、退却を余儀なくされた米軍。日が落ち、攻撃が一段落した時、主人公は崖に残り、負傷兵を1人、1人と崖下に降ろしていく。入隊直後、上官から学んだもやい結びのシーンがここで生きてくる。


その生存を諦めていた仲間たちが次々と救護所に運び込まれてくる。そこで、初めて、主人公の信念の強さを感じる仲間たち。


主人公の行動は感動的に描かれていたけれど、舞台は戦場だ。戦争なのだ。敵も味方も自国のために命を賭けた。その結果がそこにある。人を傷つける武器を持たないこと。さらにはその武器を捨てること。彼はどこよりも過酷で苛烈な現場でそれを示した。常識的な判断の出来ないギリギリの場所で。「あと1人助けたい」という思いの対象は敵や味方という振り分けをしない「1人」。彼の信仰に裏打ちされた思いというより、彼自身の信念がそれに勝った感じはする。


目を背けたくなるようなシーンばかり。しかも、前半は少し長く感じる。時間と心の余裕がある時に劇場で鑑賞を。