今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ウインド・リバー


劇場で観ても、WOWOWの放送を見てもギリギリの緊張感に溢れてた映画「ボーダーライン」。その脚本家の人が満を持してメガホンを取った作品が本作。


監督としての映像の視点、音楽のチョイス、どれもあの「ボーダーライン」を彷彿とさせる張り詰めた感満載。


お話の舞台は先住民保留地の街。かつて、保留地を舞台にした「フローズン・リバー」という映画があったが、保留地の置かれた立場というか、アメリカ社会での保留地の立ち位置、そこに暮らす人々の閉塞感のようなものがお話の根底にあり、それは今も変わりがないのだと感じる。


主人公はその保留地で、先住民の妻を娶り、家庭を築いていた男。彼ら夫婦は過去に重い何かを背負い、別々に生きることを決意したらしい。


保留地ではない街で小さな息子と暮らす決意をした元妻。仕事探しに出かける留守の間、息子を預かるために顔を合わせる。そこには美しい少女の写真。ここで、彼女の死がこの家族を壊したのだ感じる。


主人公はハンターで保留地の家畜を守るために獣を狩ることを生業としている。その日も家畜を荒らしたピューマの知らせが入り、山へ入った。


そこで、見つけたのは少女の遺体だった。3年前に死んだ娘の親友。裸足で雪原を走り続け、息絶えた少女の遺体。


なぜ、彼女は凍てつく雪原を無理を承知で走り続けたのか、何に怯え、何から逃げ出したのか…FBIから派遣された、娘のように若い女性警官から協力を求められ、彼は犯人捜しを始める。


まさか、山から下りてきたピューマに襲われたわけではないだろうが、街の閉塞感と平行し、山や雪原の不気味さもお話に緊張感を与えている。


少しずつ、犯人の包囲網が狭まっていくなかで、突然、解決への道が広がるが、そこには保留地に住む人々とそこに流れ着いた人々との深い溝が横たわる。


アメリカ社会の中にずつしりと根付いてしまった、問題。そこをベースに立ち上げたストーリー。


しがらみから逃げ出そうと足掻く人々。全てを奪われて押し込められた土地で諦めながら生きる人々。逃げるように足掻きながら、流れ着いた人々。それでも、そこで生き続ける人がいる。


例えば少数だったり、力が弱かったり、弱い立場の人間が、やり切れない感情の捌け口になるのは絶対に許せない。


明確に映画の中で訴えているわけではないが、女性がその標的にされてきたのだと感じられるラスト。保留地での女性の失踪は、今なお調査もされず、明確な数字さえ発表されていない。


この映画は実話によるものなのだ。。。


通りすがりに望むだけなら、美しい雪原と風景だが、雪の白さの下で人々の暗い欲望が渦巻いている。華々しいだけでないアメリカの今を観る映画。風景との対比でスクリーンで観ることをオススメしたい映画。


最後に、厳しい寒さの中で走ると人間はどうなるのか。それをハンターの主人公がFBI捜査官に教える。急激に冷気を吸い込んだ肺は耐えられなくなり、出血し、その血で窒息してしまう。自分の血で死んでしまうのだ。普通の人間なら100mも走れずに息絶える。


その道を少女は10?近く走り続けた。彼女は強かったのだ。けして、弱い人間ではなかったのだ。