東日本大震災を受け、注目を集めた作品がいくつかあるそうだ…
その中でも、本作は今回の被災地とほぼ同じ地域に過去に発生した津波による被害をおったなんとも辛い作品。
吉村昭氏は丁寧な取材にそって書かれている「記録」だ。
事実を題材にとり、フィクションを加えた「物語」ではなく、吉村昭氏が自らの足で訪ね、自らの言葉で問いかけた、その事実を項目別に明らかにしている。
実際に津波の被害にあった人々が振り絞るように吐き出した「言葉」は非常に重みがある。
また、それぞれの言葉で表現される津波の様子は吉村氏のペンを通して、読む側に非常にくっきりとした「画」を生む。
過去の記録ではなく、今まさに文字の向こうで、津波が力を溜めているかのような恐ろしさを感じる。
明治29年と昭和8年と2度の津波被害は様々な教訓を与えたが、そのために被った被害は想像を絶する…
そうした中で「田老」地区の長大な防潮堤は築かれていき、チリ地震の時の津波には一定の効果をもたらした。
しかし、ここで吉村氏は示唆に富んだ発言を記している。
確かに防潮堤付近では、一定の効果が見られたが、実際に浸水した場所を調べてみると、最も高い所では防潮堤の高さをはるかにこえており、過去2度の大津波の経験から検討された防潮堤と言えど、「完全」に安全を約束するものではない…と。
自分自身の心構えとして、読んでみる必要はあるだろうなぁ。
既に亡くなられた吉村さんに代わり、奥様が本書の売上げの一部を義援金とすると発表…
より多くの方に読んでもらいたい。