今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

バーニング・オーシャン


原題は原油流出事故を起こした石油掘削施設の名前。アメリカ史上最大の石油事故だというから、アメリカの人たちは、その名でピンとくるだろうが、日本人は事故のことは覚えていても、施設の名前はねぇ。だから、この邦題は絶妙だと思う。


確かに海は燃えてたし、そこに飛び込んだことで、主人公は生きながらえた。石油が流出する恐怖。海の上に炎が走る恐怖。泥水が抑制が効かなくなって、空に突き上げるように噴出する恐怖。後半はどこを取っても「恐怖」が詰まっていた。これでもか、これでもかと映し出される。


冒頭、休暇が終わり、掘削施設での新たな日常に向かう作業員たち。彼らの仕事はそれぞれ分業で、皆がプロフェッショナル。主人公たちが施設に到着すると彼らが降りたばかりのヘリに慌ただしく乗り込む数人の作業員たち。口々に経営側の責任者への罵倒を繰り返す。


大海原に光り輝く掘削施設での日常に不穏な翳りが感じ取れるが、それはともかく置いといて、施設のリーダーたるジミーの帰還に作業員たちは沸き立つ。


厚い信頼に支えられた主人公や作業員たちとジミー。現場の作業員を信頼し、その状況を把握し、的確な判断を下す。彼のリーダーシップの元に行われた作業も自然が相手、確実な調査結果を得るまでは慎重に進める必要があり、工期の遅れはある意味仕方の無いことかもしれない。


しかし、経営側はそうはいかない。工期が遅れれば、それだけ経費が嵩む。一面的に自分たちの望む通りの結果が出ただけで、ちゃんとした調査を担当するはずだった作業員たちを陸へ帰らせてしまった。現場の作業員たちの怒りを買うのは当たり前だ。


こうした意思の疎通もままならない状況で追い立てられた結果、想定外の事故が起きた。現場の最前線では最後まで死力を尽くして対応した。その結果の作業員の死亡。


直前まで金のことばかりを気にして、作業を追い立てた経営側の担当者は、泥まみれになりながらも1番に現場を逃げ出していく。ジョン・マルコヴィッチがそういう役は上手い。ホントにハマリ役。


泥水を回収するため掘削施設の側で待機していた運搬船は、事故直後から作業員の救出に全力を尽くす。日頃から危険な作業の最前線で共に力を合わせている彼らだからこその結果かもしれない。それでも事故の恐怖にパニックに陥る作業員は多く、主人公は彼らの正気を取り戻すために無我夢中で走り回る。


観てる側も掘削施設にいるかの如く、その恐怖の真っ只中に放り込まれ、後半は息つく暇もない。


前半の不穏な空気は湛えながらも、ややもすると寝落ちしかねないゆったりとした流れから突然に放り込まれる恐怖の世界。


泥水運搬船に全員が救出された後、片目が腫れ上がった傷だらけのジミーが作業員の点呼をとるシーンは胸が締め付けられた。そして、ジミーを中心に皆が集まり、戻ることが出来なかった仲間へ祈りを捧げるシーンは涙が…


ローン・サバイバー」の監督さんの映画。観る側もそこにいるかの如く思わせるマジックを使い、現場の緊迫感をスクリーンに映し出すのは彼の得意技なのか。再度、マーク・ウォルバーグとタッグを組んだ、次作「パトリオット・ディ」も公開が迫っている。楽しみだ。


そして、こうした危険な緊張の張り詰める現場で命懸けの作業をする人々がいるからこそ、私たちの普通の生活が成り立っていると認識する。