今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ホテル・ムンバイ


試写にて鑑賞。聞いてはいたけど、凄い映画だった。オープニングからラストまで、途切れない緊張感にすっかり疲れ切ってしまった…


インドの格式高い高級ホテル、タージマハール・ホテルが舞台。イスラム過激派の青年たちが「自分たちの豊かな生活を奪ったよそ者(外国人)に復讐する」という目的のためにムンバイ各地を襲撃する。その1つが今回映画化されたタージマハール・ホテルだ。


ムンバイはインド最大の都市で、人口密度も最高。港湾都市として栄えているとのことだから、経済の中心的存在なのだろう。ある意味、首都であるニューデリーより、ムンバイを襲撃する方が世界的にも彼らの意思を強く表明できたのだろう。


たった10人の犯行グループがいくつかに分かれ、機関銃や手榴弾で襲撃する。強力な武器の力は恐ろしい。ほんの数人で1000人の宿泊客と500人の従業員がいるホテルを制圧してしまう。


もうすぐ2人目の子供が生まれるレストランの給仕の青年と子供の誕生祝いでやってきたアメリカ人男性と結婚した地元のセレブ女性、2人の周辺の物語を中心に進行する。


どちらも恐怖におののき、為すすべなく逃げ回ることになる。青年はホテルマンとしての矜持を保ち、自分の命の危険も顧みず、宿泊客たちの救助に力を尽くす。また、女性の方は、はぐれてしまった夫や子供、ベビーシッターを探し求める。最後は、自分も捕らえられ、人質として、愛する人の最後を見ることになる。


実話であるから、突然のスーパーヒーローの登場で事件解決とはいかない。恐怖の頂点に達し、冷静な判断能力を失いつつある人々。ある時は宿泊客の理不尽な言動で彼ら2人は追い詰められる。それでも、青年は大切な家族のもとに無事に生きて帰るために、仕事に忠実に、宿泊客を第一に行動する。


全編を通して、ホテルマンたちの勇気ある行動と仕事への誇りに胸を打たれる。最後まで宿泊客と行動を共にした結果、犠牲者の半数がホテル従業員だったという。犯人の標的は高級ホテルに宿泊する外国人たちで、そこで働く地元の人々ではなかったはずだ。さらに彼らには従業員通路という避難路もあった。それでも多くの人々が最後まで死力を尽くし、宿泊客の安全のために行動したこと。映画で事細かく描くわけではないが、しっかりとその様子が伝わってくる。


セレブ女性の方は、人質が次々と殺されていく中で、自分も死を覚悟したことだろう。犯人に銃口を突き付けられ、恐怖に怯える口から飛び出したのはイスラムの祈りだった。はぐれてしまった愛娘のことを祈ったはずだ。


その時、まだ少年と見える犯人は彼女に向けた銃口を下ろす。自分たちの貧しさや思い通りに生きられないもどかしさの原因は、豊かさを奪い取ったよそ者たちの存在だと同志たちから強く擦り込まれた彼らは、電話の指令1本で人殺しマシーンのように動いた。彼らには自分の感情を優先する時はあったのだろうか。


犯人の中ではこの少年だけが詳しく描写されている。他の犯人については、生存者たちと接点がほぼ無かったから…その場に居た「誰か」の証言を1つ1つ丁寧に取材した上で構成されていることが分かる。


なんと言って良いのか分からない。現実に多くの人が亡くなり、ホテルマンたちの仕事への誇りを噛みしめるだけでは済まないのだろうが、簡単な感想など浮かばない。


実行犯は1人を除いて射殺された。特殊部隊の到着があと少し速かったらと残念でならないが、広大なインドという国ではこれが当時の限界点なのかもしれない。犯人はそこを突いたのか。遠く安全な場所から、電話1本でこれだけの惨事を引き起こす黒幕の恐ろしさに震えるばかり。。。


最後にもう1つ。金持ちの宿泊客を人質にしようと集められた中にロシア人の元将校がいた。皆が恐れ慄く中で、彼だけは妙に冷静に事に対処していた。それもそのはず、ロシア軍の特殊部隊に席を置いた将校だったのだ。しかし、彼自身がそれを語ったわけではない。彼のパスポートを写真に撮り、電話の向こうの黒幕に送信したところ、たちまちにしてロシア人男性の身元が判明してしまったのだ。これすらも映画用に用意されたエピソードでなく、実話としたなら、電話の向こうの黒幕はどれほどの力を持っていたのか…終映後、すぐに立ち上がることができない恐怖の源はこんなところだったのかもしれない。