今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ノースライト


久しぶり、ホントに久しぶりの横山秀夫作品。味わって、味わって、読もうと本を開いたけど、前半は自分の知らない建築の世界の話で、ちょっと話について行けず、「64」の悪夢が…


「64」は、久しぶりの横山秀夫作品ということで手に取ったのに、全然面白くなくて…(汗)。1度読むのを諦めた。でも、ドラマ化と映画化が決まり、再度挑戦した時にはスラスラ読めた。さて、本作は?


ノースライト横山秀夫 著(新潮社)


以下、感想。。。





















感想を書くということはちゃんと読み切ったということ。今までに無いタイプの作品だったように思う。戦前にほんの一時期日本にやって来たドイツの建築家ブルーノ・タウトの存在が物語に大きな影響を与えている。


このブルーノ・タウトさん、架空の人物の割に具体的で細かく描写されてるなぁと思い、読みかけなのだが、裏表紙を捲り、「参考文献」を確認した。その殆どがブルーノ・タウトに関する書物だった。実在の人だったのね。


設計士である主人公は建築を学ぶ上で、普通は通って来なければならないタウトを全く意識もしていなかった。そんなことから、タウトの記憶を辿る旅のような道行きで改めてその人となりを知る。


主人公が設計した北向きの光を取り入れた家が「建築200選」なる書物に掲載され、それがきっかけで「あの家」と同じ家を建ててほしいとクライアントがやって来る。あまりに惚れ込み、自分で現地へ行ったクライアントから、「あの家」には人が住んでいないようだと連絡が入る。


既に引き渡しも終え、土地も家屋もローン無しに支払いも済んだ家だ。設計士がその後のクライアントの暮らしぶりや家の有り様を心配する必要なんかないだろうに…と素人は考えるが、お話を読む限り、この業界ではその後もひっくるめてお付き合いが続くように思われる。


そして、不在のクライアントを探すうちに様々不審な点が明らかになり、まさか失踪かとあらぬ心配を抱くようになる。主人公がクライアントの不在を探求するなかで、タウトの存在を再認識し、バブル景気が弾けた後、酒浸りだった主人公に再び設計士の道を開いてくれたかつての仲間との大きなチャレンジにも前向きになり、主人公の有り様が少しずつ変化していく。


離婚した妻と娘にも長い歳月をかけて、立ち上がってきた姿を見せることもできた。そして、失踪を心配したクライアントの無事も確認し、なぜ自分がノースライトの家を建てることになったのかも分かる。


そして、主人公にはずっとついて回った「渡り」と称される定住地を持たないダムの型枠職人だった父との暮らしへの複雑な思い、自分が大切にしていた九官鳥を探す最中に崖から転落した父親の突然の死に対する罪の意識…それらが全て、すっきりと彼の心のなかで決着をする。


後半はミステリーというより、1度道を誤りそうになり、そこから本来の思いをしっかりと見出した主人公の「再生」の物語のようだった。


前半のミステリーちっくな雰囲気が覆う物語は、なんだかミスリードを生むための伏線のようで、そんな遠回りをさせるくらいなら、最初から、人生に悩む主人公の日々に焦点を絞ってくれた方が良かったなぁ…(笑)。もう少しで読むのを止めようかと思うくらい、ページが進まなくて…「64」と同じ結果にならなくて良かった(笑)。


なにより、主人公が地に足をつけて立ち上がる様子が想像できるラストで良かった。


昔、家を探していた時、「北側のあかり」について話してくれた不動産屋さんがいた。東京は建物が混み合っていて、北側にしか明かり採りが出来ない建物がある。でも、北側のあかりは季節に関係なく、穏やかな明かりを暮らしに与えるのだと。もちろん北向きの部屋なんかイヤだったから、その時は「ふぅ〜ん」って聞き流してしまったけど、確かに北側の明かりを暮らしに活かす方法はあるんだなぁと。


まぁ、建築関係のことは全く理解不能なので、私の思ってる「北側の明かり採り」と「ノースライト」は別物かもしれないけれど…(汗)。