今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

落日


緊急事態宣言が解除され、6月19日からは感染防止対策を十分にとったなら、県を跨いでの移動が許されることになった。


それでも、自分の足で行ける範囲がやはり安心で、遠出は避けている自分がいる。


そんな時に絶好のタイミングで届いた図書館からのメール。いつ予約したかも忘れてしまったほどに待たされていた本が確保できたという。


「落日」湊かなえ 著(角川春樹事務所)


嫌ミスではなく、最近はラストに希望の光が見える作品が多くなったように思う湊かなえさん。今回はどうだろう…


以下、感想。。。



















地方の小さな町。そこで暮らした姉妹と心を通わせた人たちの話。


小説には2人の女性が語り部として登場する。2人とも既にこの町は離れているが、それぞれ、この町で大切な人を亡くした。この町で暮らした当時、接点はまるで無かった2人が「縁」に引き寄せられるように繋がっていく。


すでに十年以上経っているが、彼女たちはずっとその傷みを引きずっている。1人は映画監督に、1人は脚本家になって、同じ業界に生きていた。そして、この小説の主人公であり、町にまだ実家の残る脚本家の作品に登場した「あの町」の風景を映像で見て、監督が脚本家にコンタクトを取る。その町で起きた殺人事件をモチーフに映画を撮りたいと言って…


映画のモチーフとは口実で、監督自身がこの町で暮らした子供時代の「真実」を知るために、自分よりしっかりしたルーツを町に持つ脚本家からヒントを得ようと…


しかし、脚本家もこの町でただ楽しく暮らしたわけではない。それどころか、大きく心を縛る出来事を未だに消化しきれずにいる。


2人とも子供の頃に大きな傷みを経験し、その頃はまだ子供だから、事の真相より傷みを乗り越えることにのみ時を費やしてきた。だから、2人とも誰かの庇護を当たり前のように受け、そこから真実を手繰ることをしないで来たのだ。


でも、そろそろ自分の足で立ち上がるべき時がやってきたのだ。2人の出会いは2人の思わぬ繋がりや町を震撼させた殺人事件の真相を明らかにした。


内容はヘビーだけど、サラリと読めるのはやっぱり湊かなえさんだからこそ。くどくどとした説明はなく、登場人物のバックボーンが急いで語られることはなく、必要な時に必要な場面に到達した段階で、話の展開の中で明らかになっていく。


また、削れる部分は削る。そこに至るまでの心の持ちようについては、中心的登場人物の脚本家と映画監督の2人以外はあまり深く掘り下げない。


こうして、バランスをとって、ラストを迎える。大切な人を亡くし、苦しい思いを抱えたまま生きてきた2人に希望が訪れるラストがホッとする。


そう、確かにホッとする。ただ途中まで、文中に小さな歪みというか上手くハマらない部分が登場し、何度もページを戻った。それは後半に入った辺りで明文化される脚本家の「秘密」を隠すためであり、読者に思い違いさせるための手法だ。


さらにその辺りから、あちらもこちらもっていう感じで隠された「繋がり」が明らかになっていく。それが読めちゃうのが残念で仕方ない。Rの文字が入った青いカップのエピソードや最後に残された監督のお父さんの「真実」はちょっと無理矢理な感じがして、どこかご都合主義的な印象もあった。


ドラマなどの映像化が前提の作品なんだろうか。それなら、納得。やはり、文字だけで読者を翻弄するのは難しいし、次々と用意されている「驚きの展開」は文字だけの説明では無理があるように思った。