今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

望郷


久しぶりに図書館で予約したのは湊かなえさんの作品。今回もなんだかんだ忙しい最中にあって、1日で読み終わるお気軽さ。


なにしろ、Blue-rayレコーダーが壊れちゃって、入荷連絡を受け、買い取りに行き、接続・設定をし、WOWOWに契約変更の手続きをし、さらに番組予約とダビングと…


そんな超忙しい日に1日で読めるって、ある意味凄い!(*゚Д゚艸)


その作品は…
「望郷」湊かなえ著(文藝春秋)


以下、感想。















今回の作品は湊かなえさんの作品に多い連作小説。


ある1つのキーワードに関連する短編小説が6編。今回はそれぞれの登場人物達に関連性は全くない。


あるとすれば、主人公達がみな、キーワードである「白綱島」に関係があること。


瀬戸内海に浮かぶ白綱島は、島だけで1つの「市」を形成する日本で唯一の島だった。


かつては造船で栄えた島も今では過疎の島となり、当時の半分まで人口が減っている。


それというのも、本土直結の白綱大橋が完成したことで、遠い先にあった本土は車で半時間ほどで行ける距離になり、本土がグッと近くなったからだ。


若者は、学校や仕事のために本土へ、東京へと島を離れていく。


そして、かつての賑わいを失った島は「日本で唯一の島」という肩書きを返上することになり、白綱大橋で結ばれた「O市」の町の1つとなることが決まった。


こうした背景がそれぞれの短編の中で少しずつ語られていく。そんな今の島に住む人達の物語が綴られていく。


どの作品にも「島」という限られた社会の中での閉塞感のようなものが底流にある。狭い世間は人が心から安らげる場所となることもあるが、時として、どうにも身動きが取れない窮屈な場所になることも多い。


そんな社会で生きる主人公たち。いずれも20代から40代と思われる若い世代だ。島のかつての賑わいを子供の頃に経験し、子供だったがために「真実」に遠いところにいた彼ら。


あの頃、自分のまわりにいた大人たちの年頃になって、今やっと気づいたこと、今やっと知ったことが語られていく。


湊かなえさんの出身が広島だとプロフィールに書かれていた。「白綱島」のモデルは因島なのか…


因島は今でも「市」だとは思うが(正直、関東地方以外は主要都市名くらいしか知らない…汗)、島という独特の地域性にヒントを得ているのか。


橋を渡った本土の「O市」は尾道?他に知らないから、分からない。


東京の下町で育った私にも、登場人物達が語る閉塞感のようなものは理解できる。「下町は人情があっていいよね」と無責任な発言に何度腹を立てたことか。


我が家の出来事は、その晩には隣の出来事になり、朝には町内の出来事になる。そういう「日常」を経験したことのある人はどれだけいるのだろう。


私は、ただ学生の間だけだ、あと〇年だとただひたすら我慢し続けた。だから、大学卒業後すぐに家を出た。


同じ東京でも、我関せずで生活できる地域をどれだけ羨んだことか。


その羨んだ頃と同じ年頃の子供を持つに至って、あの時代のあの街の空気について初めて気づいたことも多い。


そんな感覚が「望郷」には多く描かれている。


私にとっては、舞台と設定の違いはあるが、全く分からない世界の出来事ではない話が並んでいた。


ただ、私は幸運なことに大学卒業後すぐに家を出て、間もなく結婚し、相方の仕事の都合で最初の15年はそれまで経験したことの無い各地を転々とする生活を送った。だから、閉塞感に飲み込まれることもなく、なんとか距離感を保っていられたのだ。


なんだか、他人事ではない小説だった。