ポワロ繋がりでもう1冊。
「ABC殺人事件」アガサ・クリスティ著(早川書房クリスティー文庫)
以下、感想。。。
先に読んだ「オリエント急行の殺人」よりも、私がイメージするポワロ像に近いかな。
というのも私の頭に浮かぶポワロはNHKで放送されてたドラマ版のあのポワロだから。
彼が私の頭の中でも動き回ってた感じ。
お話は莫大な財産を持つ兄に対し、兄に勝るものを何一つ持たない弟の身勝手な殺人を軸に画かれる。
確かに羨ましいだろうけど、考えることがおぞましい。
兄の妻は不治の病で、痛みに耐えるためモルヒネを投与され、意識も混濁し、ぼんやりと毎日を送っている。
義理の姉が死ねば、兄の遺産を相続する者は自分だけ。そうなれば、いくら健康で情熱に溢れた兄とは言え、いつかその莫大な財産は自分の物になる。
兄の後ろ盾があってこそ、自分は好きに遊び暮らしてこられたのだ。その後ろ盾が持つ物、全てが自分の物になるとなれば、努力など何の意味も無い。
ところが、妻の病状の進行に合わせるように、兄は生涯の楽しみを見つけ出す。蒐集家としての仕事だ。病気の妻に代わる秘書として、若い女性を雇う。彼女は兄にとれば、娘のように若く、病気の妻を差し置いて、彼女と共に生きるなど考えも及ばない。
ところが、悪巧みをする者は相手の深層心理にも敏感に反応する。美しい秘書は、あくまでも仕事上の関係だと口では言うが、どこか雇い主の今後の選択に期待していた。
モルヒネを投与され、ぼんやりと過ごす妻だったが、世の中の雑事に翻弄されなくなった分、人の本性を見抜く純粋な鋭さを増していった。ある時、秘書が自分亡き後、妻の座を狙っていると公言し、秘書を遠ざけるようになる。
そこに全てがあった。
殺人事件は4回起きた。被害者の横には必ず「ABC時刻表」。Aから順に「A」が頭文字の町で、「A」が頭文字の人が殺される。単にアルファベット順という流れだけの繋がり。
それが隠れ蓑になり、真実の殺人と動機が見えなくなっていく。そこを解決していくのが、ポワロ。
人の本性にまつわる話で、もちろん真犯人は本当に身勝手でどうしようもないが、流れに応じて、身の振り方を咄嗟に変える女性秘書にも唖然とした。
表向きは、仕事熱心で真面目な秘書、しかし、心の底には莫大な財産を手に入れんとする野心に溢れていた。誰にも見抜かれなかった彼女の本性は死へのカウントダウンが始まった妻に簡単に見抜かれてしまった。
ただの謎解きでなく、人間性にまで踏み込んだお話。ミステリーも侮れない。