今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ウトヤ島、7月22日


実際にノルウェーで起きたテロを題材に映画化。オスロで市庁舎を狙った爆弾テロが起き、その同じ日、同じ犯人により、ウトヤ島にサマーキャンプに来ていた若者たちが無差別に銃撃にあった。それは72分間に及ぶ銃撃で、若者たちは小さな島を逃げ惑い、多くの命が失われた。


事件は確かに起きたが、映画に登場する若者たちに関してはフィクションで、被害にあった人たちの証言を元に構成されたそうだ。


それにしても…


一発の銃声が聞こえてからラストまで、その場にいるかのような悲しい臨場感で、銃声が近くなると体が強ばり、銃声が小さくなると、ただひたすら登場人物たちの無事を祈る。観終わって、すぐには立ち上がれなかった。


主人公は少女カヤ。議論好きで、真面目な彼女は将来議員になって社会に貢献する夢を抱いている。一緒にキャンプにやって来た妹エレノアはそんな完璧な姉が苦手だ。


友人と議論を重ね、将来に役立てたいカヤと親元を離れ、せめて姉の目の届かないところで息抜きしたい妹。


そんな行き違う妹をカヤは最後まで探し求める。銃声に逃げ惑う若者たち。小さな島には身を隠す場所などほとんどない。なんとか、テントまで戻ったカヤだったが、妹は唯一の連絡手段である携帯を放り出して逃げ出していた。


酷い傷を負った名も知らぬ少女を看取り、森に逃がした小さな少年の遺体を発見し、それまで妹を探し出すために必死に保っていたカヤの心が壊れていく。ツラい。とことん救いが無い。


ラストで、救出に来た小さなボートにカヤが命がけで探し回ったエレノアの姿があった。なんとも皮肉な結末だ。


終始カメラはカヤに寄り添う形で動くので、全体像が分からない。だから、犯人の姿も見えない。何が起きているのかも分からない。カヤが走ればカメラもそれを追う。カメラの揺れがカヤの追い詰められた状況を伝える。そんな状況下で、銃声と悲鳴がこだまする。これほどの恐怖はない。


事件そのものは凶悪な物で許しがたいが、映画としてのアイデアは凄い。観る者を、その日のその場所にいるかのように思わせ、被害者たちの恐怖を自分のことのように感じさせる作りなのだから。


その結果、テロの恐怖とその理不尽さを知らしめる。島から帰還した被害者たちの多くは心に傷を負ったという。その思いを伝えるに十分な映画だ。