今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

新選組の哲学


この度の新選組関連本は、新選組研究者の方ではなく、哲学の先生が書かれた本です。面白い視点から捉えた新選組の姿(妄想だけど…汗)を描いています。


新選組の哲学」福田 定良 著(中公文庫)


以下、感想。。。














「私」と名乗る著者は、今は既に廃刊になって久しい「朝日ジャーナル」に連載を持っており、そこに新選組についての文章を載せたことがある。それを目にしたご近所に住む新選組ファンのおじいさんが家に訪ねてきた。それが縁で、本書を執筆することになった…と「まえがき」にある。


本書のカバー扉の部分に著者の福田氏の略歴が記載されていたが、これを見ていなければ、まんまとこの「まえがき」に騙されるところだった(笑)。


「私」を訪ねてきたという伊勢川翁こそ著者自身ではないか!戦時中は徴用労働者として戦地に赴いている。伊勢川翁も同じだし…


伊勢川翁は新選組が好きすぎて、とうとう夢にまで隊士たちが登場し、彼らの日常がまるで見てきたみたいに彼の口から語られる。


「私」は、最初は少しの好奇心と人生の大先輩である人の話をたとえそれが夢の中の話とは言え、疎かにはできないとの理由で拝聴することにした。つまり、本書は伊勢川翁の話す夢の話を「私」が聞き書きをしたという体裁になっている。


そして、「私」は、老人の戯言と思える部分もあるにはあるが、彼の話の面白さについつい引き込まれ、いくつもの話を拝聴することになる。


確かに面白い。読んでる私もついつい引き込まれる。様々な小説や史談を読んできた結果、私なりに隊士たちの人となりがなんとなくイメージできるようになってきた。それを頭の片隅に置きながら、伊勢川翁の話を読んでいくと、なんだか、ありそうでなさそうな妙に人間臭い新選組の面々が思い浮かんでくる。


よく登場するのは、土方歳三沖田総司斎藤一永倉新八。聞いたことの無い名前の隊士も登場する。ここでも土方歳三は人気者だ!


最後の話は、今も多くの謎を抱えたままの山南敬助の脱走の顛末。伊勢川翁の語る山南は土方歳三への憎悪が激しい。確かにそうなのかもしれない。「組織」を突き詰めていくと、その厳しさ故に内部から崩壊の兆しが見えるようになる。そこに対する捉え方の違いが2人の決裂を決定的なものにしたようだ。そして、感情的になってしまったのは山南の方だったということか…


伊勢川翁の話はそんなふうに感じられた。面白可笑しく読んできたのに、最後の最後で、土方歳三を否定する話が登場したのにはちょっと…


本来なら、伊勢川翁ご自身が上梓すべき本なのだが、息子さんご家族と暮らすことになり、家を引き払うことになった伊勢川翁。結局そのままになってしまい、別れの挨拶をしたきり、会うこともなく過ぎたという。そこで、聞きとった伊勢川翁の夢話をまとめた…ということらしい。


今では、どこにいるかも分からないとはまた面白いことを…


文章とはこんなアプローチの方法があるのだなぁと感心しながら、楽しませてもらった。