今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

バイス


ブラッド・ピットの製作会社Plan-Bによる作品。最近の彼は演じるより作る方が評価されてるけど、その自信の現れのような映画。


かつて、アメリカ副大統領の地位は、大統領が任期中に死んだ時しか仕事が無いと言われたお飾りのような立場だった。それをチェイニーは大統領こそお飾りにし、裏でコントロールしながら、国家を思いのままに動かした。


登場人物たちは実名で、演者も本人に似せた風体なので、ちょっと間違えばモノマネ大会になってしまうところ。そこを演出の妙でリアルに見せる。


頭脳明晰、容姿端麗な恋人のおかげで名門大学に入学しながら、おそらく劣等感からだろうけど、酒浸りの毎日で結局大学を去ることになる。当時、女性はどれほど優秀でも世に出るチャンスは乏しく、恋人は目の前のヨレヨレの男をなんとか立て直し、自分を権力を自由に出来るところまで引き上げさせようと試みる。


チェイニーより、よっぽど優秀だった奥様。もう少し彼女の視点で成り上がっていく様を描いても良かったのでは無いかと感じたが…


飛ぶ鳥を落とす勢いで、国の重要な役職を歴任した彼だったが、自分の政治的な立場と家族の問題(末娘の同性婚)とが相反する状況に陥り、最終的に家族を取る。


どれほど、策を巡らして成り上がったとしても、やはり親なのだ。国の重責を担ったことで培った力を使い、彼は民間に戻って大手企業を経営し、幸せに暮らす…という、ハッピーエンドでキャスト・ロールが流れ始める。


あれ??


なんとこれはフェイク。ここからがチェイニーの本当の物語。そんなハッピーエンドで終わらない(汗)


かつて、パーティーで見かけたブッシュ家のヨレヨレな長男。一族で1番ダメな男。なんと彼が大統領になるという。今まで同様、形ばかりの副大統領就任を要請されたチェイニーは息子ブッシュにいろいろと条件を付ける。


そして、ここからが権力を握った男の恐ろしさを映画は見せていく。


9.11の事後処理の中で、国を持たないテロ集団より国家を敵として認定する方が分かりやすいという観点から、まるで関係ないある事実とある事実を突き合わせ、さも何かがあったかのように発表し、世論を煽り、軍事力行使を現実のものとする。


国を運営するにあたり、彼らに都合の良い方法こそが、まるで最良の方法かのように世界に訴えていく。


権力を握るということはいかに恐ろしいことか。映画でえがかれたことは、けして他人事ではないのだと。


そして、真実が暴かれ、自分の地位が危うくなると今度は上の娘に道を譲る。しかし、ここで彼は今度は家族を取ることは無い。末娘の立場もお構いなし。結局、1度手にした権力の魅力には抗えないのだ。


そら恐ろしい。権力の魔性を観る。