今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

八本目の槍


7月からWOWOWで「胡蝶騎 若き信長」というアニメが始まった。歴史上の人物で圧倒的な人気の織田信長。歴史の表舞台に登場する前の彼の10代の頃を描くというお話。これがなかなか面白い!「うつけ」信長の新たな視点に注目したものだ。


一般に語られている歴史上の人物のエピソードって、当時の勝ち組の都合で書かれているってことは、ここ最近、ヘビーに読んでる「新選組」のエピソードの数々を知れば、良く分かる。


そんな時、かつての大河ドラマ天地人」で直江兼続が三成の真実を語らねばならぬと言ってたのを思い出す。当時、時の勝者、徳川家康が敗残の将、三成を酷く罵ったという。勝ち組こそ正義という中で、恨みの全てを請け負った三成。


たまたま、本書がこれまでに無い視点で石田三成を描いた作品だと知り、私的には「石田三成小栗旬!」という図式が出来上がってるので、どんな新しい三成像を見せてもらえるのか、それは小栗旬にどれほどハマりそうなのか、そんな思いで手に取った。


「八本目の槍」今村翔吾 著(新潮社)


以下、感想。。。



















豊臣秀吉が信長亡き後、後継を争った賤ヶ岳の戦い。そこで、活躍が認められた彼の近習たち。その中で、侍首を取ったりして特に活躍の目立った7人を秀吉自ら「賤ヶ岳の七本槍」と言って、喧伝した。


その7人と同時期に小姓組におり、戦で名を成した彼らとは別に、文治派として近習の中で特に出世したのが石田三成。彼こそ「八本目の槍」だとした本作。


頭脳明晰で、秀吉に用いられることも多かった三成は、天下を取るまでの様々な戦では武功を上げるというより、その後方支援による石高の加増を受け、「七本槍」の7人と肩を並べる出世を遂げた。


それぞれ城を持ったり、家臣を得たり、役目を受けたりと、若い頃のように1人の思いで勝手の出来る立場では無くなり、互いに疎遠になっていく。


その中で、三成、幼名佐吉が彼らとどう繋がっていたのかを描いている。


負け組の三成についての資料はきっと多くが悪口雑言で成り立っているだろう。狸としか思えない家康に1人戦いを挑んだ彼を誰が正しく理解できたのか。


三成の居城、佐和山城の地元では、三成を大河ドラマの主人公にという運動をしていると聞いたことがある。本書を読んだら、その気持もよく分かる。


小説だから、当然フィクションなんだけど、不器用でどこまでも「自分の家」を守るために尽くす佐吉は、なんと清廉なのかと。


同じ釜の飯を食べて育った青年たちをそれぞれ、しっかりと見定め、彼らにとって、1番良い道を進むよう語りかけた佐吉。


NHKには申し訳ないけど、こういう小説を大河ドラマの原作にしてほしい。大河ドラマにするからと新たに執筆された物でなく、既にある中で面白いもの、新たな視点を提供してくれるものを…来期の「明智光秀」なら真保裕一著「覇王の番人」こそ!と思ったんだけどねぇ。。。


先の世を見据え、大勝負に出た三成。自分が勝つことだけでなく、負けた場合、さらには自分が死んだ後のことまで含んで、手を打った三成の決意に胸を打たれる。


面白かった。読み終わるのが惜しかった。読みながら、三成の姿は小栗旬くんになってイメージされた。うん、まさに。「天地人」での三成役は本当にハマり役だったのだなと…