今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

風をつかまえた少年


久しぶりに劇場へ。評判の良い「風をつかまえた少年」。俳優さんとしても、しっかりとした演技をされ、安心のキウェテル・イジョフォーさんの監督作品。


主人公は、アフリカの貧しい国の少年。その父親をイジョフォーさんが演じる。


貧しい痩せた土地で開墾作業をしながら、トウキビ栽培をする一家。一家総出で農作業をしても、一家が辛うじて食べていけるギリギリの生活だ。その中で、父親はなんとか金を工面し、少年を学校に通わせる。


自分たち親世代は、生きていくのが精一杯で、学ぶことなど許されない生活だった。だからこそ、子供たちには学ぶことで豊かな生活を得てほしかった。


しかし、国の政策の拙さもあって、彼らの生活はどんどん追い詰められていく。目先の金を得るために、貴重な資源であり、町の最後の砦である森の木を売ってしまう人たちが現れる。


貧しさは人々の心を蝕み、目先の金を得る代償に将来の希望を売り渡していることに気づかない。森が死に、土地は更に痩せ、干ばつになる。政府の僅かな穀物の販売に人々は我先にと駆けつけ、手に入らなければ暴力で、それでも手に入らなければ略奪をする。


金を持たぬ子供たちは学校を追われる。主人公も同様だ。しかも、学校に通える環境にある子供はほとんどいなくなり、閉校になってしまう。


こんな中、少年は図書館に置いてあったエネルギーの本を手に取り、干上がった土地に井戸からポンプで汲み出した水を撒くことを考える。


学びたくても学べなかった父親は、農作業の担い手である少年に学ぶことを許さない。自分とは違う道を進めるようにと学校に行かせた父親だったが、切羽詰まってくれば、とても余裕が無くなって、頑なに拒む。


町からは人がいなくなる。何も無いこの町にいても、生きる方法が無い。残ったのは痩せて干上がった土地と途方に暮れたわずかな人たち。


少年の仲間も次々と町を離れるが、少年は頑なな父親を説得し、独学で知った風力発電の原理を伝えるが、なかなか通じない。


少年は立派だ。苦しい環境下でも学ぼうとする姿勢も立派だが、それが家族のためだというのも凄い。そして、これが実話だと言うのも凄い。彼はその後、彼の優秀さを評価する教師により、その後の道を開くことができた。その図書教員も凄い。


そして、なにより、この話が何十年も前の昔の話ではないということに驚く。世界の現実を知る良い映画だと思った。


そして、ともすれば忘れがちだが、この少年のような優秀な人材に新しい道を開いた大人たちが確かにいたことはこの混迷する時代の僅かな救いとも言える。観終わってなお、ズシリと重く心に訴えかけてくる映画だった。