今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

SHADOW 影武者


チャン・イーモウ監督最新作!って言うだけで、観とかないと!


予告編に登場する、傘の骨が刃物で出来てて、グルグルしながら攻撃するシーン。あれだけでも観る価値ありそうな感じでしょ?


チャン・イーモウ監督は、とにかく映像が美しい。例えば「HERO」の大空を埋め尽くすほどに飛んでくる弓矢、「王妃の紋章」の大量の兵士軍団、チャン・イーモウ監督作に度々登場する美しき物量作戦は、もう感動というか、この監督さんの専売特許みたいな!


で、それらのシーンに代表される物語を覚えているかって言うと、それは別問題(笑)。映像ばかりが強烈に1枚の絵のようにくっきりと記憶に焼き付けられてしまい、この前「HERO」を久しぶりに見た時、「こんな話だったけ〜(汗)」と思ってしまった。


そう考えると、今回の「影武者」はストーリー的にも十分に理解でき、楽しめた。「影武者」という存在が日本の戦国時代などでもあり得た立ち位置で、その背景もある程度理解できるからだと思う。中国独自の文化だったり、考え方だったりが結構重要なポイントを占めるとやっぱり映像の美しさだけしか判断材料なくなっちゃうから。


黒澤映画に、根津甚八さんが演じた「影武者」があるが、私は「乱」よりよっぽど好きで、放心状態で火の着いた城からのそりと出てくる仲代達矢さんより、影武者の期限切れで城を追放されて出てくる根津甚八さんの横顔の方が胸を打った。


そんな私の古い思いに響いたのか、王の側近、都督の「影武者」となった主人公についつい深く入れ込んでしまう。


ストーリーは、いたってシンプルで、かつての領土を取り戻したくても、そこには強大な力を持つ男がいる。そいつを倒して、領土を、故郷を取り戻そうという軍人に対し、恭順してなんとか王朝を維持しようという王と文官。そこに1人で乗り込んで決着をつけようとするのは奪われた領土を故郷とする都督の影武者。


戦いのイニシアチブを握るのは誰か。二転三転する様は飽きさせることが無い。


そして、なにより、それらの物語を圧倒的な力で支えるのは、白と黒を基調とした水墨画のような映像全体の色合いだ。物語の流れに合ってるし、人の肌くらいしか色が付いてないその世界が当時の世の中の有り様を反映してるように思う。


彼らの住む村も宮殿もその色合いで描かれて十分事足りる。派手に描くことの多いこれまでの作品には無かった表現に思うが、敢えてこうしたことで、人の心の醜さやその場のおぞましい雰囲気をより強く表現できてるように思う。


強い相手に勝つために柔よく剛を制すの喩え通り、傘を使った靭やかな戦いを練る影武者。その武器は傘の骨が刃物になっていて、傘を振ることで、刀を振る以上の威力を発揮する。その斬新な武器と戦い方に驚いてしまう。全体としては軍の傘での戦いはほんの少しだが、わざわざ予告編や公開映像に入れ込んできたのは分かる。それほど、面白い描き方。


子供時代から散々痛めつけられ、蔑まされてきた影武者の男は、ある時、その顔が権力者・都督に瓜二つと言われ、影武者として連れてこられる。だが、その後の人生もそれほど変わることは無かった。ただ、大人になって、美しい都督の妻と過ごす時間が与えられただけで、手を触れることも許されてはおらず、彼の思いはどんどんと深く、深く心の奥底へ内包されていく。


狂気を孕んだや王や都督の間に立って、彼は何を思ったのか。最初は都督の傀儡として、指示されたとおりに「都督」を演じていくが、王や官吏の前で発言し、敵と刃を交えるのは自分自身。結末はある意味、当然だったのかと思う。都督にしてみれば、ミイラ取りがミイラになる系?


ストーリーと戦いのシーンが上手くマッチして、人のおどろおどろしさも練り込まれ、さらに水墨画のような輪郭のぼんやりとした世界が全てを包み込む。これは面白い。