今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

母との約束、250通の手紙


シネスイッチ銀座で午後の一時。予告編を劇場で観た時、感動的な親子の物語かと思ってたんだけど…ちょっと、いやかなり思ってたのと違う映画だった(汗)。狂気を孕んだ子育ての結果をまざまざと見せつける映画だった。


私は初めてその名を知ったのだが、ロマン・ガリというフランスの小説家をご存知だろうか。生涯において、小説を34篇、映画を2本、世に送り出したという。


このロマンの半生を映像化したのが本作。冒頭からロマンには父親がいない。うっかり聞き逃したが、父親はどこかの戦線に出たようなことを母親が言っていたような。母親の人物が分かってくると、その後父親については一切触れることはなかったので、戦線に出たというその話も怪しいものかなとは思ったが…


とにかく、男として名を立てろという子育て。芸術で名を上げろとピアノを無理矢理教え込もうと先生につけたり、その素質が無いとみるや、小説にしろと無理矢理紙とペンを与え、書くことを命じる。本人は絵を書きたかったようだが、絵など金にならないと見向きもしない。死んでから名が売れても仕方がないというのだ…


母親は極端な性格で、なにより自分の息子は世界に名を馳せると吹聴する。近隣の目は侮蔑の色を浮かべ、嘲笑されるが、そんなことはお構いなし。まぁ、よくこんな母親で生きてこれたものだとロマンに感心する。というより、そんな母親を持ったことで、彼は誰からも相手にされず、孤独だった。だから、母親と共に生きるしかなかったのだろう。


なんとまぁ、哀しい物語だろう。芸術の道を奨励する割に世の中が戦争に突き進むと母親は男として生きろと言う。つまりは戦ってこいと。最前線で戦い、戦果を上げ、英雄となって生きて帰れと。そして、命のやり取りをする最前線においても小説を書くことを忘れるなと。むしろ、書き続けろと…


今で言うスパルタ教育っていうヤツかな…ちょっと想像できない発想だ。それでも、ロマンは母親の言う道を進む。


正直、この映画、眠くもないのにやたらとあくびが出て困った(汗)。母親の思考、行動が全く理解出来ないせいだ。共感とかそういうレベルではない。狂気としか思えない母親の素行についていかれない。それに生きるための嘘が平気で口を飛び出す。こうして持たざる者が持つ者に並び立つほどに背伸びをしていく。


とにかく、母親には商才はあったようだ。口が達者で発想が突飛で、人の思いつかないことをやり遂げ、金を稼ぐ。その金は全て息子との生活に注がれ、貧しかった2人の生活は一変する。


だが、ユダヤ人という枷がついてまわる。母親自体は元々はロシアからの移民らしいが、生きるためになんでも受け入れる。ユダヤ人という言うからにはユダヤ教のはずだが、出自にあたるロシア正教会にも出入りする。そして、その口で自分たちはフランス人だと言い張る。彼女にとって、フランスは全てに完璧な国らしい。だから、自分たちはフランスに住んでいるフランス人だと。


最終的に戦争突入前にフランスに帰化するのだが、フランス人としての年月の短さ故、空軍に入隊したロマンはスパイと疑われ、士官も認められず、一兵卒として扱われる。


それでも、男として生きろという母親の願いを叶えるため、停戦中のフランスからイギリスに逃亡し、最前線で戦う。


ここまで行くともう滅茶苦茶だ。濃密な母子の関係。凡人の私が理解など出来ようもなく、ただ唖然として「これはどこまで事実なのか」と…


戦地で書き続けた小説がイギリスで評価され、出版される運びとなり、また被弾した戦闘機を無事着陸させ戦果を上げ、彼は戦争でも芸術でも評価され、英雄となる。まさに母親が長年願い望んだ結果を手にしたロマン。戦地に送られてくる母からの手紙は、ひたすら男として生きること、小説を書き続ける事が記され、彼の栄誉を称える言葉は1つも無い。ロマンは、母の望みを叶えたのに無視を通す手紙に違和感を覚えるが、その真実までは知らない。


彼の栄誉を無視し続ける手紙を送ってくる母親に自分からそれを伝えようと勇んで帰還するロマン…


ところが、かつて住んだホテルは閉ざされ、見ず知らずの住人がいた。そして、糖尿病の主治医のいる病院へむかう。。。


どこまでも強靭な精神力を持った母親。恐れ入る。だが、しかし、それに気づく本当にラストのラストの最後の数分を迎えるまでの全てが長い長い前フリなのだ。


これらの長い長い物語の終結を見届けて感じたこと。それは、いつかロマンは精神のバランスを崩すだろうということ…そんな予感と共に「Fin」。。。


作品としてどうとかより、芸術で生きるとはどういうことかと見せつけられる映画ともいえないか…シャルロット・ゲンズブール…物凄い強烈な母親役。こんな母親は嫌だ、絶対に。この人、前にもこんな物凄い役で観たことがあるような…まぁ、私的にはあまり得意な女優さんではない。


こんなこと言ってはいけないんだろうけど、彼女、喋る時の口の開き方が独特だと思う。人を罵倒するシーンなど、強く激しく喋るところはその曲がった口の開き方でより口を尖らせているような印象を与える。ある意味、ハマり役だ…


しかしまぁ、疲れる映画だった(汗)。