今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

And so this is Xmas


たまたま映画館で予告編を観た「サイレント・トーキョー」。キャストも豪華だし、邦画としては、かなりスケールが大きそうだった(邦画は、予告編でスケール大きそうに感じても、大概はハリボテ状態だと思うけど…汗)。


原作物と知り、とりあえず映画公開前に読んでおこうと図書館で予約。残念ながら、まだ文庫の取り扱いは無かったので、単行本の方を。


「And so this is Xmas」秦 建日子 著(河出書房新社)


以下、感想。。。






















著者の秦建日子さんは「アンフェア」の原作者。事件物ではあるかもしれないが、何かしら、複雑に絡む人間模様を描いているに違いない。


本書は文庫化に際してタイトルが「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」になり、映画化に際してはさらに後付の「サイレント・トーキョー」の方が選択されたようだ。まぁ、確かにその方が分かりやすいと言えば分かりやすい。


物語は、セレブな町、恵比寿から始まる。恵比寿と言えばガーデンプレイス。今年、恵比寿ガーデンプレイスの中心を為す「恵比寿三越」が撤退を表明した。大型ショッピングモール出店が相次ぐ地方だけでなく、全国的にデパート、百貨店が苦境にあり、それは客層の棲み分けができていたであろう東京にあっても変わることはないようだ。


その三越が登場する。夫の誕生日プレゼントを買いにやってくる中年女性。カフェ・ベーカリーでその店評判のたまごサンドイッチを求めて、外のベンチでランチする。


あぁ、素敵な光景…でも、その数分後、事態は一変する。


彼女は、日本で戦争を起こそうという犯人の連絡窓口となってしまう。


ここからはとても本を読んでいるとは思えないようなスピード感に後押しされて一気に読んでしまう。ただ、いろんな人物が登場するので、その人の背景を手繰るためにページを戻って確認作業に追われるだけだ。あぁ、映像的だ。


わずかな時間の予告編だったが、あの人があの役で、この人がこの役でと頭で整理することはできた。なるほどねぇ。でも、佐藤浩市さんはちょっとイメージ違うなぁとか…(汗)。


読み始めて、物語の当初から違和感を抱くのは、最初の犯行現場となった恵比寿ガーデンプレイスの描写。防犯カメラは無かったのか、それが気になった。警備室に行くくらいなので、犯行の中継役となった中年女性の行動は検証できなかったのか。その描写は一切無かったと思う。もうそこで、話の筋は分からなくても犯人は分かってしまう。


ただ、理論建てて犯行を立証し、筋立てするための時間が費やされていくだけだ。犯人の背景は少しずつ小出しにしないといけないし…(汗)。


何百人もの人が一瞬で命を落とし、さらに多くの人が体や心に深い傷を負った「事件」が全て犯人の描いた筋書き通りに展開したことが、なんともやるせない。


1人の人間の「戦争」への思いが、まるで関係無い人々を巻き込んで表明される。大切な人を無残な戦争で失った人間の復讐と言えるのか。「日本はテロに屈さない」「日本を戦争を出来る国にする」と公言するリーダーのいる国、日本に本当にその覚悟はあるのかと、戦争とはこういうことだとはっきりと目に見える形で示した犯人。


思いを遂げた犯人は命を絶てば全て終わりかもしれないが、この事件で生命を落とした人はどうなる、その家族はどうなる、体や心に傷を負った人々はどうなる。。。


なんとも後味の悪いことこの上ない。


少なくとも、真っ当な普通の日本人に軍の最上級の機密を寝物語に漏らす軍人がいるとはあまりに安っぽい気がするんだが…半端ない緊張感を維持しながら任務に当たる軍人の心のケアに手が届いていない現状をヒントにしたのだろうけれど。