今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

新選組出陣


今回はアンソロジーというヤツです!時代小説の作家がそれぞれ1人の新選組隊士を主眼に書き下ろした短編小説を1冊に。


新選組出陣」歴史時代作家クラブ 編(徳間文庫)


以下、感想。。。






















歴史の流れは既に知ってることで、何度も何度も読んできた。それらの時代にそって、1人の隊士を主人公に物語が組まれる。作家独自の色が出ているからなのか、1作1作、趣が違う。


新選組の歴史は短い。京都での活動期間は5年ほど。その前後、江戸の試衛館道場の時代や戊辰戦役勃発後の函館までの道のりを加えても10年あれば語れるのだろう。そのわずかな期間、歴史に登場しただけで、今も語り継がれる新選組とはいったいどんな組織だったのか。


様々な視点で書かれた評論や時代小説。たった150年前のことなのに資料が少なく、明確なことが分からない。これが敗者の悲しさ。時の政権にことごとく彼らの歴史は葬り去られる。これまで、何度も繰り返されてきた勝者の奢りと不安から発する行為。


でも、だからこその自由度で物語を展開することができる。そこにイキイキと描かれる登場人物たち。歴史の流れは踏まえつつも全くの創作で当時を描き、読み手の心を捉えて離さない。


短編ながら、面白い作品が多く、楽しませてもらった。ただ、何人もの作家が書いているにもかかわらず、「近藤勇」の造形は似ていた。試衛館時代は道場に集う男たちは世を憂う同志であり、対等な立場であったが、新選組という組織を構築するに際し、まさに立場が人を変えていき、いつしか彼らの関係は近藤勇をトップとする主従関係のような構図になってしまった。従の側になった男たちは足掻いてみせたが、当の近藤勇はそれをすんなり受け入れ、その振る舞いすらも変化していったと…


立場上、見栄えよくすることも必要なことではあるが、それを仲間うちに持ち込んでもらっては困る。そうした仲間たちの思いに気づいていたのだろうか。気づきながらも、時代の流れは振り返る余裕も与えなかったのか…いつか、その辺の苦悩(悩んでいたのであれば、だが…汗)を描く小説にも出会ってみたいものだ。


最後に、藤堂平助については…やはり、裏切り者としか思えない。ただ、彼を巡る問題として、道場での師弟関係が1番にあげられる。試衛館に食客として居付きながら、最終的にはその前に離れていた本来の所属道場の主従関係に居場所をとって変えた。それほどに道場の関係は強いのか。これはあの時代の人でないと分からないな、きっと。


坂本竜馬が稽古した千葉道場。竜馬が道場に居た頃に将来を言い交わしたと言われる千葉道場の娘(あくまでも、言い交わしただけ…汗)は、道場を離れた後の竜馬との交流が全く無いにも関わらず、竜馬が死んだ後も、竜馬にお龍という妻の立場の女がいたことを知った後も「竜馬の妻」を名乗り、生涯を過ごしたと聞いた。今の感覚なら厚かましいことこの上ないし、ちょっとその娘の感覚を疑いたくもなるが、ほんのわずかな期間の出会いでの決め事さえ、道場が絡むとこうなのか(まぁ、この娘の件に関しては、自らの立場とプライドを守るのに必死だったのかもしれないけど…)。道場での師弟関係がいかに深いかも感じ取れる。多分、近藤勇食客たちにも同じ感覚を抱いていたのだろうな。でも、藤堂平助永倉新八は違った。彼らには近藤勇ではない師匠筋がしっかりとあったのだ。そこが、近藤勇には読み取れなかったのかな…


一宿一飯の恩義というが、師匠筋はそれに勝るということか…


時代の感覚…これはなかなか理解が難しい。