今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

歳三奔る 新選組最後の戦い


小栗旬くんの新作映画の原作「罪の声」で一旦お休みした新選組関連読書も再開!


「歳三奔る 新選組最後の戦い」江宮 隆之 著(祥伝社文庫)


以下、感想。。。















新選組の最後の戦いにフォーカスした小説。表紙カバーに「長編時代小説書下ろし」と表示されている。著者のあとがきに平成13年5月とあるので、司馬遼さん達に比べれば、最近の作品ということになる。


新選組の京都での最後の日々から物語は始まる。近藤勇が元御陵衛士から伊東甲子太郎暗殺の報復として狙撃されたその日から。そこから、幕府が瓦解し、岩倉具視薩長が手を組み偽錦旗を掲げ、戊辰戦争に突入した辺りが導入部。


江戸に戻り、甲陽鎮撫隊と名を変え、甲府城を巡る戦いで敗走するまでを描き、近藤勇の斬首についてはおまけのように最後に数行割かれただけ。


最近の作品なので、史実については新しい情報を取り込んで書かれているのだと思っていた。だから、新事実を元にこれまであまり馴染みの無い隊士たちの名が登場してくるのかと思っていた。


ある程度名のある人については史実を踏まえているのだろうと思っていたが、それもどうなんだろうと首を傾げてしまったのは、たった1度名前が登場する松本良順の背景が全く間違っていたからだ。


松本良順を土方歳三の兄と紹介している。古い小説なら、史実が混同していたり、研究が進んでなかったりで取材の資料自体が不明確なところを参考に創作しているのかと思えるが、本書は平成に入ってからの著作で、しかも明治の新政府になって、陸軍の医官に奉職した人物の背景を間違えるなんて、ちょっと考えられない。敢えて、そういう設定にしたのだろうか…まさかね(汗)。


その他の人物描写にもちょっと馴染めない部分があって、それほど長い小説ではないのに読了まで何日もかかってしまった。


新選組作品では、これまであまり重きを置かれてこなかった甲陽鎮撫隊の戦い。特に勝ちを収めたわけでもなく、負けたとしても何か1つでも戦果を残したような記述もなく、善戦したとは記述があったが…それまでの刀と槍による侍の戦(いくさ)では、もう戦えないという現実を近藤勇が受け入れるまでの様子がメインで、そのために奔る土方歳三の話。


わずかに生き延びた生え抜きの隊士たちが甲府城の戦いを最後の戦いと捉え、それを契機として区切りをつけ、袂を分かった近藤勇という人物。それでもその近藤勇に付き従った土方歳三の本心はどこにあったのだろう。おそらく、近藤の弱点を1番知っていたはずの彼がなぜ最後まで近藤を生かすことに腐心したのか、その辺については剣の師匠として、人の上に立つ人物として尊敬していたという表現しか見当たらない。


その後、1人になって幕軍に合流し北上する土方歳三の評価を知ると、戊辰戦争の時期の特に甲府から流山にかけてのちょうど本書の主たる部分と重なる時期、もし、土方歳三が早々と近藤に見切りをつけていたら、もっと違う結果になっていたのではないかと思ったり…


それを思いとどまらせる、いや、そんなこと思いもつかないほどの近藤勇への憧憬、尊敬の念があったのかもなぁと。そこはそうでも思わないともったいなさ過ぎるから、土方歳三が。