今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

キーパー ある兵士の奇跡


サッカーはほどほどに興味はあるが、正直、鹿島アントラーズ以外は日本も外国もよく知らない。プレミア・リーグなんて、その歴史も知らない。だけど、先の大戦が影を落とした時代の物語なので興味をひかれた。


それにしても、公開館が少なすぎる。しかも、世の中、全席販売に踏み切る映画館ばかりでとても行く気にならない。そんな中、丸の内TOEIは平日に限り前後左右1席空けを続けている劇場だ。お近く(汗)の有楽町だし…


最近、気が緩んだのか、経済活動再開の進行度合いによるのか、再び新型コロナ感染者が増え始め、とても人が多く集まる新宿や渋谷に出向こうとは思えない。それなら、丸の内TOEIで鑑賞したいと…なんとか最終日前日に駆け込み。既に1日1回上映になっていた(汗)。


久しぶりの丸の内TOEI。いつぶり?か忘れるくらい。大きな劇場で、ビル自体は古いけど、きちんとメンテナンスされていて、トイレは綺麗だし、スクリーン内の椅子も座り心地の良いシート。しかも、前回上映との合間の館内清掃では、おそらくチケット販売した座席を事前にチェックしておいたのだろう、そのシートを1席ずつ消毒している。館内の手すりなども同様。こうして、目に見える消毒をしてくれてるとやはり安心の度合いが増す。


チケット販売窓口の女性スタッフも親切だし、感じが良い。丸の内TOEI、お気に入り映画館の1つになるな。でも、公開作品が東映作品だけなので、そこが残念ではある。本作のように公開館の少ない作品もかけてもらえると良いなぁ。配給会社のいろんな絡みや縛りは良く分からないけど…(汗)。


では、本作の感想を。本作はイギリスのサッカー・リーグ、プレミアリーグで活躍したゴールキーパーの実話に基づく作品。


主人公はバート・トラウトマン。彼は第二次大戦でナチスドイツの兵士として戦場に立った。その彼が終戦間際のイギリス戦線でイギリス軍の捕虜となるところから物語は始まる。


収容所で捕虜仲間からタバコを得るために賭けPK戦に挑んだトラウトマンはことごとくシュートを防ぎ、キーパーとしての才能を垣間見せる。その姿が、たまたま収容所に納品に来ていた地元サッカー・チームのオーナーの目に留まる。


入れ替え戦をなんとしても勝ち抜きたいオーナーは収容所の責任者に掛け合って、トラウトマンを試合に出場させる。


ドイツが降伏し、収容所が閉鎖になることが決まり、捕虜兵士たちの去就が話題になりだした頃、トラウトマンは入れ替え戦の勝利を目にしたマンチェスター・シティの監督からマンチェスター・シティでのプレーを勧められる。


いざ、ドイツへの帰国となるとトラウトマンの心は揺れる。自分に目をかけて仕事を斡旋し、試合に出場させてくれた監督の娘に恋心を抱いていたからだ。ドイツ兵は敵だと言っていた娘のマーガレットは、父が与える仕事を黙々とこなし、小さな妹に遊びを教えるトラウトマンの姿を見て、心が動かさせていく。


静かに互いの距離を縮め、心を通わせていく2人。マンチェスター・シティへの入団が決まるのと前後して彼らは結婚する。マーガレットやその家族は、トラウトマンと暮らすことで彼の誠実な人と成りを十分に知っているが、ナチス空爆で街を破壊され、家族や友人を殺されたイギリスの人々はトラウトマンを受け入れることができない。


幸せなスタートを切ったはずのトラウトマンは、スタジアム中のブーイングを全てその身、一身で受ける。


ユダヤ人も多く住むマンチェスターの街。トラウトマンには何の弁明の機会も与えられず、ただ、そのプレーで認めてもらうしか方法が無い。


トラウトマンはただひたむきにゴールを守る。チームのために、チームを応援するファンのために。そして、トラウトマンがゴールを死守する姿を通して、ファンは少しずつ彼を赦し、認めていく。


なぜ、トラウトマンはスタジアム中のブーイングを一身に浴びながらもひたすら戦うのか…彼にはトラウマがあったからだ。仲間の兵士が少年を騙し撃ちして殺してしまった。なぜ止めることができなかったのか、何も知らない少年を見殺しにした自分を責め続けた。


念願の優勝を賭けた決勝戦。彼は相手選手と交錯し大怪我を負う。しかし、医師も驚くほどの精神力で最後までピッチに立ち続け、優勝を勝ち取った。


そして、入院中。どうしても話すことが出来なかった戦時中に遭遇した少年の死をマーガレットに話そうと決意した直後、最愛の息子を事故で亡くす。


ここからが、トラウトマンとマーガレット夫妻の凄いところだ。少年を見殺しにした自分の罪が息子を奪ったと考えるトラウトマン。しかし、マーガレットは違う。息子は自分の息子であって、トラウトマンの過去の罪を償うために失ったとは考えない。自分たちは苦しくても前に進まなければならないと訴える。


なぜ、トラウトマンが元ドイツ兵でありながら、戦時は敵であったイギリスで英雄と呼ばれるまでになり得たのか。それはもちろん彼の実力もさることながら、その誠実な人柄と彼を支えた妻、マーガレットの存在なくしてはなし得なかっただろうと。


静かな良作だ。トラウトマンの苦悩と運命の恋が静かに胸を打つ。そして、マーガレットの強さに心打たれる。