今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

いけない


タイトルが不思議。これは何?と思ったのがきっかけだ。「○○してはいけない」の「いけない」だそうだ。


「いけない」道尾秀介 著(文藝春秋)


以下、感想。。。






















架空の街。土地を南北に分ける2つの市。風光明媚な海岸線を共有する街。ところが、両市が接する場所にある崖は、カニのハサミのような形をして、昔々の言い伝えに端を発した「弓投げ」伝説が崖の名前になり、更には「弓投げの崖」と言う名が「身投げ」に聞こえると人々の口にのぼり、地元だけではなく、広く知られた結果、自殺の名所となってしまい、今では立ち入り禁止となっている。


そう言った物語の背景がまずあり、そこで「してはいけない」ことをしてしまったために命を落とした人の物語。


「弓投げの崖を見てはいけない」
「その話を聞かせてはいけない」
「絵の謎に気づいてはいけない」
「街の平和を信じてはいけない」


以上の4篇からなる連作小説。時間的には各篇数年の時が空き、それぞれに主人公がおり、全てに登場する人物もいる。


それぞれに時間が空くことで、語られないことがある。それは登場人物たちの口を通して、多分そうかなっと読み手が感じるように語られる。なかなかに難しい(汗)。


でも結局、語られなかった事というより語らなかった理由は、全てに関係する人間の罪を隠すためで、途中から、おおよその結果を予測できるので、最後の「犯人」の告白はなんだかシラケてしまう。


説明しない…という物語の展開方法。説明過多でページ数ばかり多くなる小説やセリフで説明するために尺ばかり長くなる映画に比べれば、面白いのだが、語らない人物にあまり魅力が無いとそれほど面白く感じない。


残念ながら、本作の全てを知る人物はあまり魅力が無い。悩んで悩んで生きてきた人だとは分かるが、それでも、やって良い事、悪い事はあるよなぁと。つまり、実質1番卑劣で悪いヤツと…


各章の最後に添えられた挿し絵。これは面白い。絵や写真であるが、物語の大きなヒントであるし、答えでもある。この挿し絵で全てが腑に落ちる。


ある意味、語られない真実を謎解き風に楽しむ小説と言えるかもしれない。


世の中はいろんな事象が連なって1つの「事実」となっていく。しかし、その事実に全く人の意思が介在しないとは絶対にいえないのだ。


サラッと読めるので、お勧め。