今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

カケラ

久しぶりの湊かなえさんの著作。前に読んだのは「落日」だったかな。冒頭の場面がなかなか衝撃だった。さて、本作はいかが…


「カケラ」湊かなえ 著(集英社)


以下、感想。。。


















美人で評判の美容整形外科医。ミス・ワールドビューティなる美人コンテストに選出された経歴を持つ、美しき女医さんが主人公かな。


というのも、物語はけして、橘久乃という美容整形外科医の話ではないからだ。橘医師が、コメンテーターとしてテレビの情報番組や討論番組に登場して、美容整形の持つ役割を声高に発言する冒頭部分がプロローグとして用意されているが、その後はエピローグに至るまで、彼女は対面した相手の語る言葉に耳を傾け、聞き役に徹している。


自分が何を求め、何を思い生きるのか。この世の中を生き抜くためには、自分という人間の内面だけでなく、人に開かれた外見も1つのポイントになる。様々なピースが集まり、その人の人生を作っていく。誰かの真実が全て誰かに理解されるわけでもない。世の中はそうしたピースの寄せ集め…それぞれの心のカケラを集めて、人は繋がっていく。形がハマらなければ、結局互いの理解は及ばない。そのために人は人生を見失うこともある。


大空に飛び立つ羽が有るという名をもらった有羽ちゃんは実母に愛され、病に倒れた母親からその後を託された育ての母親には、誰よりも大切に育てられた。幸せに生きた有羽ちゃんは、もともとぽっちゃりさんで、育ての母親の愛情溢れる手料理ととびきり美味しいドーナツを食べ続け、体重が異常に増えていく。


その外見の変化から、1つの考えに凝り固まった高校教師から要らぬ注意が向けられ、本来の幸せ太りと真逆の虐待と指摘を受ける。


育ての母親と有羽ちゃんは様々な困難を乗り越え、2人で手を携えて楽しく生きてきた。その9年の日々の真の思いを知らず、外見だけで騒ぎ立てる教師、父親、叔母に混乱させられ、最悪の結末を迎える。


そこに立ち会ったのが、橘医師だ。育ての母親との静かな日々を取り戻すために、母親を要らぬ外野の無責任さから守るために、有羽ちゃんは痩せる決断をする。太り過ぎてしまって、いまさらダイエットの効果も期待できない彼女は、美容整形を受診し、脂肪吸引の道を選択する。


ところが、母親のために良かれと思った決断は、娘の太り過ぎを放置した虐待親として世間から責められ、追い詰められていた母親にさらに過酷な仕打ちとなる。脂肪吸引をした後の実母を思わせる美しい娘の姿は、娘を愛していると言いながら、醜い姿にしてしまった母親にとっては実母の糾弾でしかなかった。


同じ1つのことであっても、どのように受け止めるのか、どの側面から見つめるのかで「事実」の有り様が違ってくる。


橘医師が自分の施した脂肪吸引の手術後、自殺した少女の関係者から話を聞く中で、それぞれの背景が分かってくる。


テレビに出るような有名美容整形外科医である橘医師だが、事は彼女のごく身近な人の繋がりの中で起きていた。それぞれの立場ばかり主張するのではなく、橘医師も含め、関係のある人が皆、少しずつ心を開き、それぞれの思いのカケラを合わせていけば、少女は死なずに済んだのかもしれない。


それぞれの言い分を聞いて回る橘医師を筆頭にほぼ全員が自分の都合を主張している。人1人の命が失われたのに…


形も変わり、話も構成も変わってるのに、やっぱり湊かなえさんの物語だ。なんともやるせない。後味の悪い小説だ。前回読んだ「落日」より、こちらの方が面白い。