今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

83歳のやさしいスパイ


都内には4度目の緊急事態宣言が発出された。一旦、蔓延防止措置に基準が引き下げられた段階で「ゴジラ vs コング」を観に行こうかと思ってたんだけど…


ゴジラが大ヒットしてる最中に緊急事態宣言発出では、やはり混雑してる劇場に行くことは躊躇う。ここ最近、コロナ感染者数も急に増えているし、大ヒットの上映中作品は1か所に多くの人が集まるから…結局、鑑賞回避。


残念だけど、小品でそんなに混雑しない上映時間帯の映画を選ぶしかない。少し待てば、今ならオンライン上映も可能かもしれないが、やはり、映画は映画館で観たい。


そこで、選んだのが本作。まず、混雑しない時間帯に気になる作品が上映されているか、劇場側の座席配分数はどうか…そうしたこちらの希望にマッチする作品はなかなかない。さらに劇場のある町も重要。新宿や渋谷は、映画以外の人出も多いから、どうしても敬遠しがち。


本作は未だ席数を制限している数少ない劇場、シネスイッチ銀座で上映されているし、公開間もないのか(それすら調べていない…汗)午前中の上映がある。劇場のある銀座も確かに人出は増えているが、午前中ならまだ少ないし、帰りにどこにも立ち寄らずまっすぐ帰宅すれば短時間だし、往復の電車も空いている。


こんな様々な気遣いをしなければ、納得して映画が観られない。誰もがそうではないだろうけれど、コロナ禍の生活はずいぶん「視点」の変化が必要になった。


自分なりの様々な条件をクリアして出かけた本作。さて、感想は。。。


全く予備知識ナシでの鑑賞。高齢者が新聞の求人広告を見て面接にやってくる。ちょっと変わった内容の探偵事務所の求人に応じて採用されたおじいちゃんは「スパイ」となって高齢者施設に体験入所する。


ターゲットとなるおばあちゃんの家族から施設で虐待されている不安があるから、監視して報告してほしいという仕事を請け負う。おじいちゃんは扱い慣れないスマホで写真の撮り方、録音の仕方、テレビ電話での連絡の仕方等々一生懸命学び、潜入するのだが…


ドキュメンタリー映画のようで、フィクションのような本作。実はドキュメンタリーなのだそうだ。確かにおじいちゃんがスマホの扱い方を学んでいる最中にカメラやマイクを持つスタッフが映り込み、探偵事務所の所長が「スパイの潜入を助けるため(そんな趣旨…)映画をすでに撮影している」という発言をしている。このシーンまで、私は本作をフィクションだと思っていた。


でも、その線引きが私の中で最後まで明確にならず、戸惑いながらの鑑賞となった。おじいちゃんが覚えるように指示されたターゲットのおばあちゃんは似た人が数人いて、私はその違いが最後まで明確に分からなかった(汗)。そのせいで、主人公のおじいちゃんとターゲットのおばあちゃんの関係だけでなく、その他の入居者のおばあちゃんたちとのやり取りなども登場し、いったい、どこがメインなのか、おじいちゃんの仕事は何なのか…と何度も戸惑い、戸惑い観続けた。


高齢者施設で暮らす高齢者たちの生活ぶりと施設スタッフの仕事ぶりをおじいちゃんにスパイさせることで、そこにはどんな時間が流れ、高齢者たちは安定した生活が出来ているのか…例えば、虐待など高齢者を苦しめる環境があれば、その証拠を押さえようというドキュメンタリー。


スパイのおじいちゃんは探偵事務所からはやらなくて良いと言われた個室への潜入やターゲット以外の人物への行動監視、さらにスタッフへの意見具申など、彼個人の考えで行動し始める。


その中で、入居者たちの多くが孤独を抱えていることに気づく。おじいちゃんには誕生日を祝ってくれる家族がいる。潜入中に誕生日を迎えたおじいちゃんは家族の訪問面会を受け、さらに施設の皆にも祝ってもらう。だが、入居者たちには、スタッフと入居者しかいない。彼らを施設に預けた家族は生活が忙しく、彼らを顧みる時間がないのだ。そして、預けて近くに居ないことがすでに日常になってしまっている。


おじいちゃんの最後の報告。施設ではスタッフが入居者のためにプロの仕事に徹しており、虐待などは全く無かったと。ただ、入居者たちの生活の様子が見えないと感じる家族には施設への訪問を訴える。入居者たちはそれぞれに孤独を抱えて生きている。それを解消できるのは家族だと。


ただ、家族が全てではないのも事実。現実的にすでに家族の居ない高齢者もいる。たとえいたとしても、互いに無理して面会を重ねていれば、いつか息切れしてしまう。施設で出会った入居者たちはおじいちゃんにとって大切な友達だ。優しく紳士的で人の話を真剣に聞いてくれる実直なおじいちゃんは入居者たちにとっても大切な友達。家族でなくても、友達がいることで、人は前を向けるのだ。


人と触れることの大切さを知る。それぞれがそれぞれの役割を果たしながら、繋がっていく。


スクリーン内には高齢者の観客が多かった。彼らの目には本作がどう映ったのだろう。