今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

世界一の地域医療を目指して 岩手医科大学物語


なんでこの本を読もうと思ったのか…今となっては、自分でもよく分からないが、読もうと思ったきっかけの1つは朝の連続ドラマ小説「おかえりモネ」に登場する医師、菅波の存在だ。彼が自分の中の葛藤を抱えつつ、訪問診療に足を踏み込んでいくところで、地方での医療の担い手としての覚悟に触れたからだ。


地元の図書館に蔵書は無く、リクエスト制度を利用し、区に本書の購入を申請したが、なんと、1ヶ月経っても私のマイページには「リクエスト受付中」の文字が…


やっと、本が確保されたと連絡が来た時、1つ先のお隣の区からの相互貸与資料として借りられることになったと注釈があった。


「世界一の地域医療を目指して 岩手医科大学物語」小川彰 著(潮出版社)


さてさて、一応それなりに人の住んでる区で私以外誰も要望しなかった本が果たしてどんな内容なのか…以下、感想。。。


















まず、著者の小川彰先生は、脳神経外科のエキスパートであり、母校岩手医科大学の理事長として、母校の建学の精神を広く世に知らしめんと日夜奮闘されているドクターであると紹介しておく。


そして、岩手医科大学の特殊性が東北という地域の特性を背景として成り立ったこと、研究機関としての大学医学部でなく、人の医療の最前線で働く医療人を育てる学校だと知る。


1つの大学に医学部、看護学部、歯学部が併設され、それぞれ横断的に共に学ぶ授業をプログラムしている。土地柄、首都圏では考えられない広大な土地を有し、学ぶ学生たち、診療をする医師、看護師、そして、なにより、そこに受診に訪れる地域の人々のために高度な検査機関としてだけでなく、彼らのための医療機関として成り立っている。地域の人々を迎え入れる姿勢を貫くために病院内の動線まで検討を重ねた新校舎は理事長自ら建築推進してきている。


手前味噌でもなんでもなく、自分が岩手医科大学で学んだ医療人としての矜持を示す内容だと思う。


大学病院として、自腹で賄えない部分の研究に対して国との折衝もする小川先生。時々の国のあり方を自分の目で見て、率直に意見を述べられているのは、北東北を支える覚悟の現れだと思った。


本書を読んで、維新直後の明治新政府はやはり自分たちの利益を重んじるだけの視野の狭い成り上がり者たちの集団だったと確認できたし、東日本大震災時の民主党(当時)政府の政権与党としての経験不足、中でも政策遂行責任者である時の首相、菅直人の政治家としての力量不足とを再確認できた。


多くの人たちの生活に直結する大災害の際、地域の大学病院は最後の砦になる。そのことを現場の医療人たちは十分に知っているし、覚悟もしている。けれど、一組織でしかない大学病院がその機能を果たすためには、政治が重要なのだ。その思いを受けて、決断を下せない者は国のトップに座るべきではない。多少の毒気はあってもいざと言う時の決断力が全てだ。それがない人間は人を不幸にする。


日本人の不幸は、歴史上においても決定的なその時にそぐわない人間がのうのうと権力の座に座り続けたことだ。そんな事は1日でもあれば、国は転覆する。


来ないにこしたことはない災害に、自分たちのできることを準備する。その姿勢は東日本大震災を経験した土地だからこその強い思いだろう。今後益々覚悟をもって、教育に大学運営に進まれることと思う。


1つの私立の医療機関ではあるが、こうして、歴史を知ることは大切だ。