今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

その扉をたたく音


瀬尾まいこさんの作品。「そして、バトンは渡された」が本屋大賞を受賞して、田中圭永野芽郁で映画化される。それに続くのが本作なのだろうか。


「その扉をたたく音」瀬尾まいこ 著(集英社)


爽やかな水色の表紙。感想は以下に。。。




















やっぱり、瀬尾まいこ作品は心が軽くなる。小説を読んで、声を出して笑ったのは久しぶりだ。


父親が市会議員をするほど地元では知られた宮路くん。彼はもうすぐ30歳になるのに、なんやかんやと理由をつけて働くこともなく、財力のある父親の仕送りで生きている。


夢のような毎日だ(汗)。彼は高校で始めたギターで音楽にのめり込み、さして上手くもないのに仲間とバンドを組んだ。しかし、仲間たちは高校を卒業するとそれぞれの現実世界へと進んでいった。しかし、宮路くんは自分探しの毎日を送り続ける。


趣味の範囲を超えることのない宮路くんのギター。彼が演奏を発表する場なんてあるわけがない。ところが、高齢者介護施設のレクレーションの時間に彼がギター演奏を披露するチャンスが訪れる。施設にしたら、多くの高齢者の毎日のレクレーションには工夫も必要で、何をするか頭を悩ませているから、宮路くんのような演奏をしてくれるボランティア参加は願ったり叶ったりだ。


でも、やっぱり、人生それほど悩みもない宮路くんの奏でる音楽は人生の苦楽を乗り越えてきたおじいちゃんやおばあちゃんには何も訴えかけるものが無い。途中、シラケてきた場を保たすために介護士の渡部くんがサックスを演奏することになった。


そのサックスの音色に宮路くんはたいそう驚いてしまう。素晴らしい演奏だ。なぜ、あんな素晴らしい音楽を聴かせるのに、介護士なんだと宮路くんは猛烈に渡部くんにアプローチしていく。


全く価値観も生活も違う2人の青年が、偶然出会い、高齢者たちとの時間を重ね、新しいチャレンジをする。この時間は新しい毎日への助走。そして、ちょっと長かった休憩時間を切り上げることになる宮路くん。いつも、自分の生活から抜け出すことなくどこかに諦めがあった渡部くんには、この出会いが一歩踏み出すきっかけになった。


新しい扉をたたく音が聞こえてきそうなラスト。頑張れ、宮路くん、渡部くん!