今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

夜明けのすべて


コロナ禍で、緊急事態宣言で、あれこれ停滞気味の毎日。映画を観ることもなく、本を読む気にもならない日々。


こんな時は、瀬尾まいこさんなのだ、絶対!


ところで、「水鈴社」ってどこやねん!


「夜明けのすべて」瀬尾まいこ 著(水鈴社)


以下、感想。。。

















どんなに世間で頑張ってるふうな姿を見せていても、それがいつまで続くのか、続けられるのか。人間は、意外に弱いもの。長い人生、つまづきの1つや2つ…


どんよりと後ろ向きになりそうな時、瀬尾まいこさんの小説は、私を励ましてくれる。頑張れと追い立てるのではなく、こんな人もいるんだよと目の前のことに囚われている私の目を開かせて、前を向かせてくれる。


ことさら、大きな事件が起きるわけでもないが、人の生活ってそんなものだ。日常のさりげない毎日に気づきを与えてくれる小説なのだ。


今回は、私も全く知らなかった病気の女性と名前だけは知ってる病気の男性が、それまでバリバリと第一線で活躍してきた日常から逃げるように小さな金属部品屋さんに転職し、そこで同僚となる。


男性の方のパニック障害は、ホントに名前だけ知ってる状態で、以前、軽いパニック障害で…と話してくれた人から閉塞された場所がダメで電車には乗れないと聞いたことがあったが、それ以上の知識は皆無。


女性の方は生理前になると情緒不安定気味になり、些細なことで怒りが爆発してしまう症候群。怒りを自分以外の人にぶつけないと治まりがつかない。私自身の生理中の特異な症状と言えば、ひたすら眠くなることくらいで、学生時代は元々授業中は居眠りばかりだったので、人から指摘されることもなく、また、水泳以外の運動については全く支障が無かった。その日に体育の授業で運動能力の記録をとっても何の変化もなく、問題も無い。そんな私だから、女性の、藤沢さんの苦痛は実体験として理解してあげられない。


それはパニック障害の山添くんも同じらしいけど、同性なのに理解が及ばないのは、本当に藤沢さんに申し訳ない。


あはははは…そんなふうに藤沢さんと山添くんを受け止めてしまう。ホントにその辺に居そうな彼ら。その2人の視点で語られる物語が交互に。。。


2人が同僚になった栗田金属という会社は社長の栗田さんを筆頭に大ベテランの男性社員が2人と事務を担当する女性、こちらもそこそこのベテランが1人。小さなネジなどを扱う会社で、なくなっては困るけど、だからと言ってみんなが必要とする会社でもない…かつては手広く仕事をし、羽振りも良かったらしいが、時代も変わり、ある出来事をきっかけに普通に給料が出せる程度に稼げればOKというスタンスの会社になった。社員全員が1日無事に安全に働ける会社であることが1番の…。


だから、人に理解されにくい病気を抱え、ガツガツ働くことが出来ない状況の藤沢さんと山添くんには最適な会社なのだ。でも、実はこの栗田金属という会社は、内実、物凄くデキる会社でもあったのだ。


大きな会社で、やり甲斐だけは日本一みたいなところに席を置いていた藤沢さんと山添くんは病気が原因で人と上手く接することができなくなり、栗田金属というのんびり働ける場所に来たかのような話の端緒だった。どんな状況でも、体が無事なら稼がないと生きられないだ。


1番ネックになってる彼らの病気も彼らの個性なのだ。確かに不自由なことは増えたが、その不自由さも生活の一部になったのだから、元の生活に戻ろうと足掻くのでなく受け入れていくことの大切さを彼ら自身が気づいていく。


亀の歩みのようだけど、ちゃんと見てくれる人たちがいる。山添くんが発作の薬を貰うために仕方なく通院していた心療内科の担当医は淡々と山添くんを迎えていたが、それは流れ作業のようでいて、実はしっかり山添くんの変化を確認していた。


山添くんが苦しんでいれば、わざわざ彼の無事を念じてお守りを届ける人がいる。けして、山添くんの華やかな人生が終わったのではなく、彼が楽しく生きられる毎日が開かれたのだ。


彼にそのヒントを与えたのは、なんの脈絡もなく、ボサボサの山添くんの頭をカットしに来てくれたちょっと変わった行動力を持つ藤沢さんとの繋がりだった。藤沢さん自身も山添くんのおかげで、自分の捉え方を少し気楽な方向に変換できた。


たまたま出会った2人が、人の目を気にして必要以上に1人で抱え込んでいた悩みをことさら気にすることなく付き合えている。その不思議さ。でも、この2人ならあり得るかも…


やっぱり、瀬尾まいこワールドは最高だ!


そうそう「水鈴社」って、文藝春秋社から独立した人が立ち上げた、まだ生まれたばかりの小さな出版社だそうだ。その第1作目が本作品なのだそう。


出版社の規模も瀬尾まいこワールドにぴったりな気がする。「水鈴社」は、さながら栗田金属のような会社で好きな本作りをのんびり楽しくやってる、実はデキる人たちの集団なのかな。