今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

カメレオンズ・リップ


「カメレオンズ・リップ」


主演は松下洸平


かつて、堤真一深津絵里で上演された不条理劇の再演。初演時は原作者であるケラリーノ・サンドロヴィッチ氏が直接演出をされた。この再演は、かつてのケラ氏の戯曲を3本復活上演する企画の1つ。ケラ氏の戯曲をアレンジし、登場人物の設定を少し変更し、演出したのは河原雅彦氏。


ダブル主演として松下洸平と並んだのは生駒里奈。ちょっとキンキン喋る声が耳に障るのが印象に残るくらいで、演者としての印象はほぼ皆無。確か、舞台なのに番宣番組に2人が出演したのを見るとはなしにふと見かけた時、彼女のうるさい印象が変わることはなく、登場の様子から生駒里奈が主演で松下洸平はあくまで、顔を売るために着いてきたふうの印象しかなかった。ところが、本編はどうだろう。松下洸平が板の上にいるから場が保てる。裏に捌けた時はかなりぼんやりした芝居になっていた。


当時は、まだ私の中で八郎さんを越えるものはなく、他の出演を楽しむほど松下洸平にハマってもいなかった。そう、当時はただただ土方歳三のみ。1ヶ月に10冊以上の新選組関連の小説や資料的史本を読み漁っていたので、とても他に目を向ける心の余裕も時間の余裕も無かった。


後は絶本しか漁る本が無くなった頃、冷静にまわりを見る余裕が出てきた。ちょうど「リモラブ」の頃かなぁ。でも、基本的に民放のドラマはよほどの興味を持たないと見向きもしない私には平日夜の民放ドラマは網にかからない。


紆余曲折あって、気づいた時にはどっぷりハマってたが、「ぐるナイ」も結局最後の1回しか見てないし…気になる人が出演してるからと言っても自分がハマるかどうかはその時次第、作品次第ということだ。


その点、本作はストレートプレイであり、松下洸平という俳優を知るには良い作品かと考えた。まだ見ぬ「木の上の軍隊」と「母と暮せば」の2作については軽い気持ちで見ることはできないと分かってるから。


「夜来香ラプソディ」での華のある立ち姿やテレビで見る顔とは別の演者、松下洸平の一端を更に見たい。そんな思いで見てみた。


さて、本編。


話はちょっと複雑で、あっちへこっちへ飛びまくる。その中でもストーリー・テラーとしての松下洸平はとりあえず1本の芯になっている。最初とは全く違った展開へ進む物語。なぜ、主人公姉弟は人里離れた山奥の邸宅に人目を忍ぶように暮らしているのか。それは最後の最後で分かる。それがこの2人の全てなのだ。ほんの数人しか出演しない芝居で、主人公の心の闇を語り切る。なかなかに複雑で1度見ただけでは理解の難しい戯曲だと思う。かと言って、一々DVDを止めてチェックするのもお粗末だ。なら、何度でも見よう。そう思える作品だった。


そして、松下洸平という役者の本領見たり…と思える本作。彼はまわりが彼に高みを望めば望んだ分だけ、その高みを悠々と越えていく。彼が板の上でごまかしの効かない勝負を続けた結果を今、私は目の当たりにしている。


生駒里奈は確かにキンキン喋る。でも、本作はその喋り方が役にピッタリだった。他の演者もまたしかりで、本作はキャスティングの妙も見せつける。