今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

向こうの果て


本放送開始前、WOWOWでやたらとその宣伝予告が流れたのを覚えている。でも、その映像で分かることは、松本まりかさんの主演ドラマであるということと彼女の演じる役柄が稀代の悪女で男を踏み台にして生きる女性だということしか分からないものだった。


最初から、そこに松下洸平くんが登場してたら少しは見方も変わったのかな。さて、どうかな。


今でこそ、松下洸平くんはイチオシの俳優さんだが、朝ドラ「スカーレット」の八郎さん以外は、ほぼ認識してないで「最愛」の放送を見始めたのだ。そんな私には、やはりあの予告では初回から視聴することはなかったろう。


私にとっての松本まりかさんはブレイクのきっかけとなった不倫ドラマでの怪演があとを引き、おそらくどんなまともな役をやっても、いつかあの怪演が飛び出してくるはずと変な期待を抱いてしまい、彼女の芝居もストーリーも全く頭に入ってこない女優さんになってしまった。


だから、ことさら彼女を全面押しされると拒否反応が働き、素直に見ることができない。


そんな私が本作を見ようと思ったのは、松下洸平くんが出演してることを知ったのもあるが、連ドラとはいえ45分ものでない放送枠30分ドラマの監督が、あの「ミッドナイト・スワン」の内田英治監督だということが影響してる。


「ミッドナイト・スワン」はストーリーや演者がどうこうじゃなく、お話のテーマが凄かったのだと思う。人の生き様の根底というか、どうにもならない呪縛というか、多分、他の誰かには理解されない「私」の世界に焦点を当てた作劇で、そこをえぐり出す視点で描かれていた。後味は悪くても、その場に立ち、その思いを共有したものにはちゃんと意味をもたせる展開。私達は第三者だからこそ、見続けられた作品。


この「向こうの果て」もまさにそんな内田節のドラマだったように思う。


けして、理解されない松本まりかさんと松下洸平くんの関係(役名忘れちゃったので、ごめんなさい…)、そこから逃げなければいけないという呪縛、でも逃げられない想い。


激情をぶつけることでしか、相手に想いを伝えられない女と全て分かったうえで受け止めることしかできない男…


これ、内容的にも民放では放送できないよなぁ…主人公が渡り歩く男たちもそれなりに人数いるので、時間制限のある映画は無理だし、かと言って1話45分は長過ぎる。映像化に関しては、今回のWOWOWの手法がベストだと思う。


元々は舞台作品だと聞いたけど、どうなのかな。舞台ではまた違ったアプローチなのだろうが、そちらもどう脚色されてるのか見てみたいな。


本当に心の底から求め続けた相手が、幼馴染で、昔の互いの生活の苦しさを知り尽くしており、ある大きな十字架を共に背負い、それでも求めるものはお互いだけの2人。その2人にこれ以上ない過酷な枷を負わせる。


最初は互いに逃げたのだと思う。子供だった2人にはどうしようもできない。けれど、大人になり、自分の思いを小説に書くという手段を得た男は、結果は知れてるのに女を探し続ける。そして、最期まで彼女に寄り添うことを決める。その哀しい想いが胸を締めつける。男が死んだ後、彼女に生きる道はもう残っていない。結果は知れていた。ただ、2人だけの想いだったものがちゃんと彼女を取り巻く人たちに届いたこと、それが僅かながらも救いなのかもしれない。


登場時間は短いけど、強烈なインパクトを与える松下洸平という役者の本領を見た気がする。


あんまりドラマを見る人ではない私が何度も見返した作品。これは凄いドラマだ。